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第4話

 付き合い出してから、僕は玄さんの家に通い詰めている。  今では一年くらいが経ち……僕は最近もやもやとしている。  玄さんのことは大好きだし、有玄くんのことだって可愛いと思う。  僕の心に引っかかっているのは……多分玄さんが結婚していたという事実、だと思う。  玄さんが過去結婚を決めるような相手がいて実際に結婚したこと……そして、僕は見てしまった。玄さんが、リビングで愛おしそうに前の奧さんと有玄くんと三人で撮った写真をじっくりと眺めていたのを。  僕はどんどん欲が出て来て、ただ付き合うだけでは気が済まなくなったのだ。  奧さんを超えたいという気持ちがムクムクと湧いて出て来てしまって、有玄くんのことも、奥さんとの愛の結晶のような気がして辛い。  そんな自分も醜くて嫌いだ。  僕は玄さんが写真を眺めている時に思わず部屋を飛び出そうとして、勢いよくリビングのドアを叩いた。割れてしまうかと思うくらいに。 「ゆうきっ!?」  靴を履いて、玄さんの家を飛び出そうとしたけど――玄さんのスピードは速かった。僕が玄関を出るより先に、僕に追いつき、僕のことを後ろから抱き締めた。そして言う。 「有季、最近様子がおかしいと思ってた。今、六月だから。六月に結婚した俺の過去のこと、気にしてるんだろ?」  玄さんは僕を解ってた。そう、玄さんと奧さんは六月に結婚したらしかった。有玄くんをデキ婚で。だから急いで籍を入れたらしいんだけど、それがちょうど皆が憧れるジューンブライドで。  僕と付き合い始めてのアニバーサリーより、今は亡き奥さんとのアニバーサリーの方が大事なんじゃないかと僕は邪推していた。  僕と付き合ったのだって、相手が女性よりも男性の方が、奧さんに対しての罪悪感が薄いからじゃないかって。  付き合って一年で、僕の疑念は我慢の限界になった。  でもそんな僕を、玄さんは強くぎゅっと抱き締めた。 「有季、俺と妻は有玄が出来て――考える間もなく結婚した。妻のことも好きだったよ。間違いなく。  でもそれはもう過去だ。俺は今、お前のことを本気で愛してる」    玄さんの声が、耳元で熱い。本気で愛してるなんて言われたのは、僕の人生で初めてだ。 「妻のことがあって思うんだ。俺は、もう人生で後悔はしたくない。  だから出来るものなら、俺は今すぐにでも有季と結婚したいよ。  こんな、過去もあって年もいってて、子どももセットの俺でごめん。  だけど、有季のこと、俺の人生で二度目の恋だと思ってくれないか」  玄さんの、俺を抱き締める腕が熱い。かかる息が熱い。頬が熱い。視線が熱い。  僕だって、玄さんへの想いはほんの遊びなんかじゃない。  「そっそれって、まるでプロポーズみたい……」  僕はつい口にした。馬鹿だ。これは正真正銘、玄さんのそれに間違いないのに。    そこに、リビングの方からとことこと、有玄くんがやって来たのだ。  可愛らしい表情で、僕らのことをキョトンと見ている。 「パパ、ゆうき抱っこしてるの?」 「そうだよ」 「僕も抱っこー」 「ごめん、今日だけは、もうちょっと待ってな」  僕は、紫陽花が好きだ。蝸牛も。  そして、六月のこともやっと好きになれそうだ。  僕は玄さんの腕の中でそんなことを考えていた。   おしまい

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