19 / 19
初夜
大広間では、夜を徹しての祝賀会が続いている。パーティー好きの魔族なので、まだ大勢が料理や酒、そしてダンスを楽しんでいるに違いない。
楽団の演奏する音楽が、遠く微かに聞こえてくる。庭園で花火が打ち上げられ、夜空を鮮やかに彩った。
(初夜にしては些か、賑やかすぎる気もするが……)
魔王さまは洗濯済みの白い夜着に身を包み、寝台に腰かけて、ドキドキしながらルネを待っていた。
「魔王さま……」
(――来たっ!!)
湯浴みを済ませたルネが寝室に入ってきた。頬を桃色に染め、うつむきがちに立っている。
「ゆ、湯浴みは済んだか」
「は、はい」
魔王さまは見れば分かることを聞き、ルネは消えそうな声で返事をした。
(いかん。二人とも緊張でガチガチだ! これではまた、失敗してしまうかもしれぬ!)
「る、ルネ。こちらへ……」
魔王さまが呼ぶと、ルネは黙ったまま、おずおずと寝台に近づいてきた。白い夜着が愛らしい。伝え聞く天使というのは、きっとこんな姿に違いない、と魔王さまは思った。
「ルネ」
魔王さまは手を伸ばし、ルネの身体を引き寄せた。そのまま男らしく寝台に押し倒す――予定だったのだが、ふと思い直し、ルネを膝に乗せた。そして子供にするように、横座りに座らせる。どうもルネは少し怯えているようなので、そうした方がいいと思ったのだ。
髪を撫でると、とろけるように柔らかだった。その感触が気持ちよくて、魔王さまは何度もルネの頭を撫でた。
「本当に、縛らなくともよいのだな?」
事前に例の本をティノに見せて尋ねたところ、手順は必ずしもあの通りでなくともよい、ということが分かった。
「い、いいです!」
ルネは慌てて首を振った。
「そうか」
「あ、でも、その。魔王さまがそうしたいなら……」
「し、したくないぞ!」
魔王さまは、ルネをぎゅっと抱きしめた。
「限られた時間なのだ。優しくして、大切にしたい」
「魔王さ、ま」
限りある時間。残酷な現実を思い出し、ルネの胸は締めつけられた。
「ルネよ」
魔王さまも少し悲しげに微笑むと、ルネの目尻に滲む涙を指先で拭う。
「嘆くな。健康に気を配り、少しでも長くお前といられるよう、努力しよう」
「はい、魔王さま」
ルネも魔王さまを心配させまいと、精一杯の笑顔を見せた。
「しかし、人の身とは儚いものだな……。どう頑張っても、余命はせいぜい八十年……」
魔王さまは、ため息交じりに呟いた。
「………………は?」
「ん? どうした」
「は、八十、年……?」
「ああ。魔族の寿命は数百年だが、俺は人間の血が混じっているのでな。百年程度の寿命しかないそうだ……」
魔王さまは寂しげにうつむく。しかしふと気づけば、ルネがぷるぷると震えていた。
「ま、魔王さまっ!!」
「どうしたルネ」
ルネは文句を言ってやろうと思ったが、身体の力が抜けてしまった。だがそのおかげで、さっきまでの緊張も一気に緩む。
ルネは笑い出した。魔王さまはわけが分からずに、首を傾げている。
「よかった……」
「何を言うか、ルネ。ちっともよくないぞ。こんなに可愛いお前と一緒にいられるのが、たったの八十年とは。とても、足りぬ」
魔王さまは、両の掌でルネの頬を包んだ。氷のような青い眼差しがルネを見つめている。綺麗だな、とルネは思った。
やがてどちらからともなく唇が近づき、そっと触れあった。
(や、柔らかい……っ!!)
人の唇がこんなに柔らかいものとは。魔王さまは驚いた。このまま溶けてしまいそうだ。しかし恐る恐る食んでみると、ぷりぷりと弾力があった。まるで採れたての葡萄のようだ。
肩を抱き寄せると、ルネも魔王さまの首筋にしっかりと腕を回してきた。
(ルネは、俺のことが、好きなのだな)
その時になって初めて、魔王さまは実感した。
抱きしめて髪を撫でながら、首筋に、耳たぶに、優しい口づけを落としていく。夜着の胸元をはだけさせると、ミルクのような白い肌が露わになった。魔王さまはその肌を、ペロリと舐めてみた。
「ふふっ」
ルネが笑う。
「くすぐったいです、魔王さま」
「ふふふ」
ルネが笑うと嬉しい。可愛い。
ふと見ると、胸の桃色の突起が、ミルクをかけたイチゴのように見えた。魔王さまはそこに唇を寄せ、軽く食んでみた。
「あ、ぁふ……っ」
ルネが小さく吐息を漏らす。
(う……っ)
魔王さまの下半身が、じくじくと痛んだ。
「き、気持ちいい、だろうか?」
大真面目に聞く魔王さまにつられて、ルネも真剣に答える。
「は、はいっ!」
「そうか!」
心底嬉しそうな顔をする魔王さま。ルネはそんな魔王さまが、愛おしくなった。
(なんだか魔王さまって――、可愛いな)
「ルネ……」
魔王さまはルネの胸の突起をしゃぶり、舌先で軽く舐め、何度もつついた。
「あ、あふぅ……」
思わず漏れる声が恥ずかしくて、ルネは掌で口元を抑えた。しかし魔王さまは目ざとくそれを見つけ、手を取り払ってしまう。
「……よい。声を聞かせるのだ、ルネ」
「で、でも……っ。恥ずかしい、し」
「ふふ」
魔王さまは意地悪く手を押さえ、放してくれない。そしてまた、そこをしゃぶる。
「うぅ……んぁんッ、は、はぁっ、あッ」
「ひぁ……っ、ん、んぁ……っ」
「はふ、あッ、あ、あふぅ」
舌先が触れるたび、ぴくりぴくりと反応するルネが可愛い。魔王さまの下半身は、ずきずきと痛むほどに膨張していた。
(ルネは、どうだろう)
魔王さまはそろそろと手を伸ばし、まとわりつく夜着の上から、ルネのその部分に軽く触れてみた。
「ん、ふ、」
ルネが身を捩る。
(さ、触ってもいいのだろうか!? いや、いいのだ……な?)
恐る恐る撫でてみる。
「あ……っ!」
服の上からでも、それがゆるりと頭をもたげているのが分かった。
ルネの身体を見たい。気がはやり、魔王さまはルネの夜着を取り払った。羞恥で桃色に染まる肌の美しさに、目を見張る。
「ルネ。恥ずかしがることはない。とても綺麗だ」
「で、でもっ。僕だけ裸なのはずるいです」
ルネは少しだけふてくされたような顔で、魔王さまの夜着を引っ張った。
(うっ。あざとい!)
「わ、分かった! 俺も脱ごう」
魔王さまはかっこよく見えるよう意識して、夜着を無造作に脱ぎ捨てた。実はあらかじめ、練習しておいたのだ。
「…………」
魔王さまの身体は隆々と筋肉がつき、男らしく逞しい。ルネはつい、大きな性器をまじまじと見つめてしまった。
(小さくは、ないと思うのだが……)
魔王さまは寝台の上に胡座をかいて座り、腿の上でルネを向かい合わせに座らせた。うっすら産毛の生えた肉球を掌で包むと、まるで子猫のようにふわふわと柔らかく温かい。魔王さまはそれを手の中で軽く揉みしだいた。
(なんて触り心地がよいのだ)
「ん、んっ……」
ルネは顔を隠すように、魔王さまの肩口に埋める。
(ううっ。顔が見たい。だがこうして恥ずかしがっているのも可愛い……。困った)
芯を持ち始めた性器に手を伸ばして撫でると、それは陶器のようにすべすべだ。
「ぁ、ふ」
握り込むだけで、ルネはぴくりと震えた。軽く扱けば眉を寄せて瞳を閉じ、与えられる快感を素直に受け取る。
「ふぁ……っ、あ、」
「んあぁ――……」
「は、ふ……」
「ルネ。可愛いぞ……」
魔王さまは堪らずに、ルネの耳元で囁いて耳たぶを甘噛みした。
「ひぁ……っ!」
逃がさないようにしっかり捕まえ、ちゅうちゅう音を立てながら耳たぶを吸うと、ルネは身体を仰け反らせた。白い顎と首筋が、薄くともしたランプの灯でほの白く輝く。片手で性器を扱きながら、もう片方の手で感じやすいらしい乳首を摘まみ、さらに耳をねぶってやると、ルネは泣き声に近い声を上げた。
「ひぁぁああッ、あッ、んぁッ」
「や……っ、ま、魔王、さま、はぁっ、あ、んぁっ、あ」
「あ――……!!」
すっかり熱を持った性器の先端からとろりと蜜が溢れ、魔王さまの指に零れる。魔王さまはルネを膝から下ろし、寝台に寝かせた。
(そろそろ、いいかな……)
魔王さまは、寝台脇に用意した香油の瓶に手を伸ばした。蓋を開けると、甘い香りが部屋に広がる。魔王さまは、掌にたっぷり香油を取った――のだが。
「あっ」
ルネが辛くないようにたくさん使わなければ、と思うあまり、取りすぎてしまった。香油は掌から溢れて、ポタポタとシーツの上に垂れた。掌はいっぱいで、このまま塗りつけてはさらに零してしまう。シーツがベタベタになって、ルネが不快な思いをするだろう。かといって瓶の口は狭く、取りすぎた分を戻すこともできない。
(ど、どうしたら……)
魔王さまは慌てた。
(手際が悪い!! ルネに呆れられてしまう!)
魔王さまは掌にいっぱいの香油を湛えたまま、大いに焦った。
「……魔王さま」
ルネが身体を起こし、すっと手を伸ばしてきた。魔王さまの掌の上で、取りすぎた香油を自分の指に絡める。
「ルネ?」
「魔王さま。僕も魔王さまに触りたい……」
ルネは香油を絡ませた自分の指で、魔王さまの性器に触れた。
「ふあ……っ!」
撫でられるとそれは大きく脈動して、ルネに応えた。
「う、ルネ……っ」
魔王さまは目を閉じ、ぷるぷる震えながら快感に耐えた。ルネの愛情が、指先から伝わってくる。
「ルネ……!」
魔王さまは欲望の赴くままに、ルネの片足を持ち上げて自分の肩にかけた。そして秘部を露わにし、残りの香油をそこに塗る。
「ふぁ……」
香油を塗りながら円を描くように愛撫すると、ルネは浮き上がるような声を上げた。
(感じている……)
魔王さまの鼓動も早くなる。慎重に指先を立て、僅かな先端だけを、その可愛い窪みに押し込んでみた。
「あ、」
ルネはぴくりと身体を震わせた。痛くはないようだが、恥ずかしいのだろう。身体はすっかり火照り、ルネの中も驚くほどに熱い。
「ルネ……」
優しく名前を呼んで首筋に口づけ、魔王さまはさらに奥へ指を進めた。
「あ、あ……ッ」
身体の中を探り、確かめるような慎重な指先。その指先から、自分をいたわる魔王さまの心が伝わって、ルネは震えた。
(大切に、されている……)
多くの人にかしずかれ、もてはやされる必要などなかった。自分をたった一人の相手と認め、大切に思ってくれる人がいる。それだけで、充分だったのだ。
「魔王、さま……」
顎を上げて口づけをねだれば、魔王さまの優しい唇が応えてくれる。
たっぷり時間をかけてルネの身体が慣れ、指がだいぶ奥まで挿入ると、魔王さまは軽く抽挿してみた。ルネが痛がる様子はない。
(ええと、そうだ。気持ちいいところを探すのだったな)
本で学んだ通り、魔王さまは指の腹を使い、そこを探した。少しずつ指をずらしながら探ってゆくと、ある一点に触れた時、ルネの腰が淫らに跳ねた。
「ぁあっ……」
小さな唇から漏れる甘い喘ぎが、魔王さまの欲望に火をつける。
「ここが……、よいのか?」
内緒話をするように尋ねると、ルネは真っ赤な顔で小さく頷いた。
「可愛いぞ……ルネ……」
魔王さまは、可愛い、と何度も囁きながらそこを撫でた。そうしているうちに、きつく締めつけるようだった内部がほぐれてくる。
(そろそろだろうか……)
「る、ルネ」
ルネは察して、微かに頷いた。もう一度、想いを確かめ合うように、互いの唇を食む。
「で、ではゆくぞ」
魔王さまはルネの足を開かせた。そして昂ぶっている己自身を、ルネの秘部にあてがう。
(ゆっくり、慎重に、だったな。よし)
予習したことを思い出し、魔王さまは先端をほんの僅かだけ、奥へ押してみる。ルネがぴくりと震えた。
「――!!」
魔王さまは慌てて腰を引いた。
「い、痛むかっ、ルネ!?」
「い、いえっ。大丈夫です」
「そうか。ではもう少し」
魔王さまは、またほんの少しだけ、慎重に奥へ進む。
「すまん! 痛かったかルネ!?」
「だ、大丈夫……です」
「そうか。よし……」
「…………」
「痛いか!?」
「あ、あの、いいえ。大丈夫です……、が」
ルネにはさっきと違いが分からなかった。第一、まだ先端がほんの少し挿入っただけだ。
「あの。大丈夫そうだし、もう少し……」
一気にいっちゃって大丈夫です。と言いかけて、ルネは慌てて口をつぐんだ。それではまるで、慣れているように思われてしまう。
「ええと、その……」
かといってこのペースでは、一晩中かかるだろう。
「ま、魔王さま。僕は、少しくらい痛くても平気です。だから……、魔王さまも、我慢しないで……」
潤んだ瞳で見つめられ、魔王さまは雷に打たれたような衝撃を受けた。その衝撃は下半身に伝わり、緊張のせいか少し萎縮していた性器を震わせた。
(な、なんと健気な……!)
魔王さまの瞳に涙が滲んだ。ようやく念願の体験をして、一人前の男になることなど、もうどうでもよくなっていた。そんなことより、大好きなルネと結ばれること、そしてルネも同じようにそれを望んでくれていること、それが一番大切なことなのだと、魔王さまには分かった。
魔王さまは嬉しかった。しかし涙を見られるのが恥ずかしく、ルネの首筋に顔を埋める。
「ルネ。辛かったらすぐに言うのだぞ?」
耳元に、優しく口づけを落とす。
「は……い」
魔王さまは高鳴る鼓動を抑えつつ、昂ぶる己自身を再び、ルネの窪みに押し当てた。しかしそこはまるで、凍らせすぎたアイスクリームに匙を入れた時のように、固い。
(本当に挿入るのだろうか……)
ルネは眉間に皺が寄るほど、ぎゅっと目を瞑っている。
(ええい! いつまでも躊躇していても始まらぬ!)
魔王さまは思いきって腰をぐいと突き出し、自身の先端をねじ込むようにしてみた。上等な香油のおかげでそこはよく滑り、思ったよりずっと容易に、先端がつるりとルネの中に挿入った。
(あっ!!)
「はぁ……っ、」
ルネが、恍惚のため息をつく。
(は、挿入った……)
痛くはないようなので、もう少し身体を進めてみる。するとルネが瞼を開き、切なげな瞳で魔王さまを見上げた。その亜麻色の瞳を見ると、魔王さまの胸にも切なさが広がる。
魔王さまは次第に深く、ルネに身体を沈めていった。
「あ、アッ、はふ」
「ゆっくり息をするのだ。落ち着いて……」
「ん……ッ」
「力を抜けるか?」
「は、い」
魔王さまはいったん動きを止め、ルネをしっかり抱きしめた。するとルネは安心したのか、身体の力が抜けてきた。半ばまで挿入された入り口が、ふわりと柔らかく、とろけるような感触に変わる。
(あ……)
ルネが、自分を受け入れてくれる。魔王さまにはそれが分かった。
そのまま少し強引に身体を進め、先ほど見つけた、ルネの感じるらしい場所を擦るように動かしてみる。するとルネは痛みと快感の両方に攻められて、戸惑うように身悶えた。
「あ、んぁああ! あッ、ふ……」
「ルネ。辛くはないか……?」
「は……い」
ルネがうっすら目を開けて答える。
「ルネ……、ルネ」
魔王さまの胸に、愛おしさがこみ上げる。その想いに急かされるように、魔王さまは身体を進めた。
「あ、ふぁあ……」
「魔王、さ、ま」
「いっ、あ、ぁ……」
時々、痛みが辛いのか、ルネは苦痛の表情で身を捩った。だがそれでも、魔王さまの背に回した腕を解こうとはしなかった。
ルネの戸惑いや恐れや切なさや歓喜が、ルネの心が、繋がった部分から自分の身体に流れ込んでくる。もっと繋がりたい。魔王さまは、深く深く身体を沈めていった。
「はぁっ、ルネ……」
自身を全て沈めてしまうと、魔王さまは注意しながら体重を預けた。
「あッ、は、挿入って、る……?」
ルネが喘ぎながら聞く。
「あ、あ。ちゃんと挿入ってる、ぞ」
魔王さまは、少し汗ばんだルネの額にかかる髪を上げ、口づけを落とした。
「魔王、さま」
「ん……」
唇を合わせ、舌を絡め合い、吸い合って食む。ふと魔王さまは、唇を放して呟いた。
「すごいな。こんなにお前と繋がっていられるとは」
ルネは痛む下半身を一瞬忘れ、笑った。しかし魔王さまは真顔だ。
「どうした。俺は何かおかしなことを言ったか?」
「いいえ」
ルネは微笑んで、魔王さまの首筋にぎゅっとしがみつく。
「う……っ」
魔王さまは小さく呻いた。ルネが、自身を締めつけるのを感じたのだ。
「あ、る、ルネ……っ」
雄の本能が魔王さまを突き動かした。たどたどしく腰を動かして、ルネの奥を突く。
「あっ、魔王さ、ま……、いっ、あ、ぁ!」
何度か突くと、ルネも腰を動かして応えた。
「はぁっ、あ、ぁ……っ」
「んあぁぁぁ!」
切ない声が、まるで魔術のように魔王さまを操る。魔王さまは夢中で抽挿を繰り返した。
「う……っ、ルネ……っ」
堪らずに声が漏れてしまう。
無我夢中で抽挿を続けながら、屹立するルネ自身も掌で包み扱いてやると、それはビクビクと震えた。先端から蜜が溢れてくる。
「あ! 魔王さま……っ、ん、……ぁあ」
(これが気持ちよいのだな)
魔王さまは嬉しくなって、それを何度も繰り返した。
(そうか。ここにもあらかじめ、香油を塗っておけばよかったのか)
失敗した、と魔王さまは思ったが、次の時にはそうしようと決めた。
まだルネを知ったばかりだ。これからもっともっと、知ることがあるだろう。今夜の儀式は、始まりの儀式に過ぎないのだ。
「あ、あぁ……ぅ」
「はふ、ふっ、あぅぅ……っ、んぅぅ、」
「ああっ! あ――……」
「はぅう、ぁあ……」
絡みつくルネの内部は、まるで甘えてねだっているようだ。
「ルネ……っ」
何かが身体の中心を駆け上がる。それは魔術を使う時の、身体に魔力が満ちる感じにも似ていて、魔王さまとルネを一緒に高みへ連れていった。
「ああ……っ、ルネ……っ」
「あ、もう、ぃ、」
どくん、と、身体の中心が弾けた気がした。掌の中のルネ自身からポタポタと白濁が吐き出されたのと同時に、魔王さまもルネの中に想いのたけを放った。
「はぁっ、はぁっ……」
乱れた息づかいのルネが可愛くて、愛おしくて――、それはなぜか切なさに似ていて、魔王さまはなんだか泣きたくなった。ベタベタの手を拭い、ルネを抱きしめる。
「魔王さま――」
ルネも、魔王さまを抱きしめ返す。
言葉はいらなかった。そのまま二人して身体を横たえ、じっと見つめ合う。軽く口づけを交わし、腕枕で寄り添う。いつしか二人は、静かに眠りに落ちていた。
初めての情事に疲れた身体を横たえる二人の上に、白銀の月光が降り注いだ。二人はぐっすり眠っている。
ピンク色の光が、真っ白いシーツの上に落ちた。魔王さまの身体からゆらめき昇るピンクの炎は、おずおずと躊躇うように寝台の周りを一周し――、シュウッと小さな音を立てて消えた。
魔王さま(童貞)の婚約 完
-------------------------------------------------
ご愛読ありがとうございました!
感想など、お待ちしています╰(*´︶`*)╯
ともだちにシェアしよう!