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第3話

優希の作った漫画研究会に入ってから数日が経つ。特にやることも無く、優希の描いた絵にダメ出しをしながら過ごしていた。 「結紀くん、結構はっきり言うね……」 「まあ、下手なものは下手ですから」 机に頬をくっつけて意気消沈している優希を放置して、近くの棚にあった漫画を読む。 「ああ、和樹くんとは最近どうなの?」 「いつも通りです」 「告白しないの? まず、そういう意味で見てもらわないと意味ないんじゃない?」 優希の言葉を無視して、漫画をしまいリュックを手に取る。 「次、講義なんで」 「はーい、行ってらっしゃい」 優希に見送られて部室の外に出ると、人にぶつかった。 「……君、いややっぱりいいや」 茶色のカーディガンを羽織った男性はそう言うと、漫画研究会の部室から離れて行った。 「なんだ……?」 一体なんだったのかと首を傾げてから、下の階に降りると丁度、剣道部の部室から出てきた和樹と出会った。 「あれ、結紀がここにいるの珍しい。サークル見に来たの?」 「サークル入ったんだよ、言ってなかった?」 「え、聞いてない。……結紀、今日さ久しぶりに出かけない?」 「デートはしないの?」 ーー女といる方が好きなくせに。 和樹に言いはしないが、遊びに行くことを誘われてから、「やっぱりデートする」と言われることがある。 そうやって何度も、約束がなくなって行くのを経験すると、もう和樹に期待しようと思えなくなってしまっていた。 「しない。……結紀と久しぶりにちゃんと話した方がいいと思って」 「ちゃんとって、なに?」 「俺の彼女のこととか……」 「それを聞いて俺が喜ぶと思う?」 きつい言い方になってしまったことは自覚している。しかし、もう引く気もなかった。 漫画研究会に入って、優希と話すうちに、今まで通り何もかもを受け入れることが出来なくなってきていた。 和樹のことが好きだから、全部諦めて受け入れる。何故だかそれは、違う気がして声を張った。 「和樹は、俺のことどう思ってるの?」 「どうって……」 ここまで言ってしまったら、もう後には引けない。今まで築き上げてきたことが、全て無意味になってしまう。それでも、止まれなかった。 「俺は、和樹のこと……和樹の彼女と同じように好きだよ。だから、これで終わりにしたい」 驚いて目を見開く和樹から視線を離す。2階の階段から足音が聞こえて、少しだけ冷静さを取り戻した。 「結紀、それって……」 「はいはい、邪魔だよお二方! 痴話喧嘩なら他所でやってよね」 和樹の言葉を遮って、会話に入ってきたのは優希だった。優希は、俺の肩に手を置くと和樹のことを見て、ニヤリと笑った。 「結紀くん、途中まで送ってあげるよ」 優希はそう言うと俺の手を掴んで歩き始める。その姿を見ていた和樹は、サークル棟に静かに響く声で言った。 「俺じゃなくて、そいつのことが好きになったんだろ」 和樹のその言葉の意味は分からない。ただ、分からないまま、優希に引っ張られてこの場を立ち去って行くことしかできなかった。

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