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第2話

大学2年生の春。 和樹との関係は何も変わらない。 「ああ、そうだ。今日彼女と帰るから、先帰ってて!」 和樹との共通の講義が終わって、さて帰るかと立ち上がった時、和樹からそう言われた。 「なに、この前別れたんじゃなかったの?」 剣道のサークルに入っている和樹は、数日前に付き合っていた年下の彼女と別れたと聞いていた。それから数日も経たずに新しい彼女がいる。それも、大学生になってからはよくあることで、慣れ始めてしまっている。 「昨日、付き合ったんだよね」 「昨日?」 「そうなんだよね、昨日。告白されてさ、結紀もサークルとか入った方がいいよ、いい子いるかもよ?」 ーー和樹にだけは言われたくない。 その言葉を飲み込んで、いつも通りに和樹に「俺はいいの」と返して、教室から出た。 和樹は、何気なく俺に恋人を作らせようとする。 ーー好きなのは和樹だけだって。 それは言えずに、ため息をついた。このまま、友人として終わるぐらいなら告白した方がいい。そうは思っても、この関係が崩れるのが怖くて何も言えなかった。 そうこう考えながら歩いていると、いつもは立ち寄らないサークル棟の方まで来ていた。 「サークル棟なんて、初めて来た」 ぽつりと呟いて、目の前の緑の壁に貼られているサークル勧誘のポスターを見た。 和樹の入っている剣道、バスケ、演劇など様々なポスターの間に、ボロボロのよれた紙を見つけた。 「なんだこれ」 紙を手でなぞりながら、そこに書かれている文字を読む。 「漫画研究会、部員募集……」 お世辞にも上手いと言えない子どものような絵が描かれたそのポスターには、大きな文字で部員募集と書かれていた。 こんな部活あったのかともう一度目を通す。 「入部希望だね!?」 「え? は?」 急に声を掛けられて驚きながら、後ろを振り返るときらきらと目を輝かせた男性がいた。 「いやー、困ってたんだよね。うちは部員全然来ないから」 男性はそう言いながら、俺の肩に手を回して人の良さそうな笑顔を浮かべる。 「ああ、自己紹介がまだだったね。俺は、神崎優希、心理学科の3年! さあ、俺たちのサークルに行こうか」 「俺たちのサークル?」 「うん、漫画研究会」 「は? 俺まだ、入るなんて……!」 言い終わる前に腕を引かれて、サークル棟の二階へと案内される。そして、薄暗い廊下を通り、どこのサークルからも離れたところにある扉を優希が開く。 部屋の中に案内されて、直ぐに見えたのは本棚とそこに詰められたたくさんの本だった。 「まあ、座ってよ」 優希はそう言うと、真ん中に置かれた長机を指さした。 「いや、俺はサークルに入るつもりは……」 「好きなんでしょ? 彼のこと」 優希はそう言いながら、窓に近づいて外を見た。俺もそれを追って、窓の外を見る。そこには、和樹の姿があった。 「彼、有名だよね。女好きで、イケメンって、噂がここまで耳に入ってくる」 「……そうなんですか」 「そんな人を好きになるなんて、君も大変だね」 「いや、俺も和樹も男ですよ?」 何故か全てを見透かされているような、嫌な感覚が身体を走る。それでも、ここで肯定しては行けないと思い首を振った。 するとそんな俺の様子を見て、優希は笑う。 「いや、そこで否定されても。ここはさ、恋愛相談室も兼ねてるから、学校の情報は何でも入ってくるんだよね」 「……どういうことですか」 「彼、和樹くんだっけ。彼のことを調べているうちにさ、君が和樹くんを好きなのも知っちゃったわけ」 優希が確信を持って聞いていることを感じて、否定するのをやめる。 「それで、俺はどうすればいいんですか?」 問いかければ優希は、にこりと笑って俺のことを見た。 「ようこそ、漫画研究会へ。君の恋愛成就のお手伝いしてあげる」 優希はそう言うと、俺に手を差し出した。

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