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「ちっちゃいなぁ〜」  シエラはそのデジャヴに肩を竦め眉間に皺を力一杯寄せて振り返った。 ──なんなんだ?  ここの人間はノックもせずに勝手に部屋に入って、初対面の人間には挨拶そっちのけでまずは第一印象の発表から入るのがこの国のしきたりなのか、マナーなのか、そうなのか?! 「ど、どちら様でしょう?」  湯浴みを終えて気分良く体を拭いていたシエラは口に出したい全ての言葉を割愛し、奥歯に力を入れてそれだけ発した。 「俺はニキアス、この国の第二王子だ」  シエラは何度目かのデジャヴにもう怒りも全て通り越して、これはこの城の姉弟に出会った際における一般的な通過儀礼なんだと解釈することにした。  ニキアスと名乗った彼は、髪の色こそ姉や兄に似ていたが、それ以外はあまり似ているように思えなかった。まだ二人より幼いせいか背もそこまで高くなく、体も明らかに成人男性の風貌ではない。瞳の色は海の色をしているヴァシレフスよりも少し紫がかった薄い青色をしていて、それは姉のアレクシアとも違った。 「ちっちゃいの。お前ここで何をしてる」 「ちっ……」 「ここは兄様の客間だ。お前のような子供が入っていい場所じゃない」  明らかに敵意を全開に向けられたシエラは、堪忍袋の尾が切れる音を聞くと同時に一気にニキアスの前まで歩み寄り、顔までの距離をギリギリに詰めて鋭く睨みあげた。   「はじめまして王子様! 俺にはシエラって名前がちゃんとあるんでどうぞよろしく! それに小さいのはお前も同じじゃないかっ」 「だっ、誰にものを言っている!」 「お前にだよ! チビ王子ッ!!」 「なんだと貴様ぁッ!」  ニキアスが自身の短剣に手を掛け抜こうとするのをシエラは見逃さなかったが、一切引く気もなかった。 「王子様は丸腰の相手に剣を振るうのか? 大した器でいらっしゃる」  ニキアスの怒りはさらに大きくなり、白い肌は一瞬にして赤い炎のように火照っていた。 「おやめください! ニキアス様!」  カリトンが青い顔をして客間に飛び込んできた。 ──またコイツもノックをしないのか。と内心シエラはがっかりしたが、今は無視することにした。  カリトンは怒りで震えるニキアスの肩を後ろに引いてどうにか収めようとするが、ニキアスも引く気はないようだ。 「なりません、ニキアス様。シエラ様はヴァシレフス様の伴侶となるお方なのです。」 「バッ、カリトンッ、その言い方やめろよッ!!」  衝撃の一言にシエラの怒りは泡のように一瞬で弾けてしまった。 「伴、侶……? このちっちゃいのが兄上の?!」 「デカさは関係ないだろっ! いや、違う、そうじゃなくて俺はただの──」  シエラは次の言葉に声を詰まらせる。 ──ただの、なんだ?  ただの、運命……? ってのもなんだか変だ──。 ──俺は、ヴァシレフスのなんなんだろう?  言葉にして形にするのはこんなにも違和感を覚えるものなのだろうかとシエラはひどく困惑した。ニキアスだけが一人傍で騒いでいたが、シエラの耳には何一つその声は届いていなかった。  視界の隅で押さえつけられながら力づくで退場させられてゆくニキアスと、お辞儀をして逃げるように出て行くカリトンがぼんやりと見えた。 ──星見の運命にヴァシレフスは逆らった……。だとしたら、今の俺はヴァシレフスにとって何に当たるんだろうか──?

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