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②【天使に翼を手折られたい】 1
──二年B組には、天使がいる。
そう噂されているのは、その高校に通う誰もが知っていた。
栗色の髪はふわふわで、前髪は可愛らしいヘアピンで留めている。
目は宝石のように輝いていて、女の子のようにまん丸で大きく、愛らしい。
身長は百五十センチと小柄で、本人曰く「まだまだ成長中だよ!」とのこと。
高校で背が伸びることを想定して、少し大きめの制服を購入したらしいが……そのせいで、いつも袖が手を隠してしまっている。だが『それも計算なのでは?』と思うほど、あざとく、可愛らしい。
いつだって笑みを絶やさず、ただでさえ容姿だけでも人を惹きつけるその天使は、成績優秀だった。
スポーツも人並み以上にこなせて、人間関係も良好。教師からの信頼も厚く、学校中の誰に訊いても、その天使の評価は高い。
それがこの男子校の天使──佐渡 心太 だ。
──などとは、表面的な話だ。
昼休み。職員室から自分の所属しているクラスの教室に向かいながら、俺は心の中で笑った。
教師に運ぶよう頼まれた山のような教材を抱えていると、色々な生徒とすれ違う。
男子校だから、すれ違う生徒は当然ながら男だけ。
校則通りに制服を着こなしている人もいれば、その髪色なら頭髪検査で注意されるだろうという生徒もいる。
中でも、品の無い笑い方をしている生徒を見ていると妙に腹が立つ。
……汚い。口にはしないよう気を配りつつ、俺は眉を寄せてしまった。
俺こと真宵 麦 は、どこにでもいる普通の高校生だ。
自分の容姿を評価したことがないから世間一般から見ての俺がどのように映っているのかは分からないが、どこにでもいる普通の学生だろう。
銀縁の眼鏡に、制服は校則通りに着用。髪も染めていないのだから、どちらかと言われなくても普通の容姿なはず。
強いて特徴を挙げるのであれば、成績は常に学年でトップをキープしていること。……それと、友達がいないという点。
決して、人付き合いが極端に苦手、というわけではない。高校に入学する前はそこそこ友人に恵まれていたし、休みの日に遊ぶ友人だっていた。
けれど、今の俺には友達がいない。
──『友達を作るな』と。あるお方に、命じられたのだから。
「……あっ」
間抜け面を晒して笑っている生徒から、視線を逸らす。
そうすると俺は、あるお方を目にした。
「え~っ? なにそれ~っ?」
愛らしいお顔が、笑みを浮かべることによって尚更、華やかに輝く。
そこらへんにいる蛮族とは一線を画しているそのお方は、ニコニコと微笑みながら、数人の男たちを相手に談笑なさっている様子だ。
「ホントだって、マジマジ!」
「あはっ、変なの~っ」
二年B組の天使。男子校の姫。歩く男の理想。
他にも色々な肩書をお持ちの彼こそが、佐渡心太様だ。あえて言葉にすることでもないが、やはり佐渡様は今日も愛らしい。
普段、俺と佐渡様が言葉を交わすことはない。
俺から声を掛けるだなんて、おこがましくてできないし。佐渡様もわざわざ、俺と話そうとはしないのだ。
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