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理解が、追い付かない。
けれど、佐渡様が俺を待っている。
「ほ、本当に……お縛りに、なっても?」
「今日の真宵君はサイアクなくらい物分かりが悪いね~っ?」
「縛らせていただきますッ!」
馬鹿か俺はッ! 名誉挽回するつもりが、汚名挽回してどうするッ!
ソファに寝そべった佐渡様の細い手首に、甘い香りのするネクタイを添えた。
「キレイに縛らなくていいから。むしろ、雑に縛って」
「く……ッ! 承知、いたしました……ッ!」
主の細腕を、家畜が縛るだなんて……ッ! 極刑レベルの、不遜な行為じゃないかッ!
……まさか、今日はそういう憂さ晴らしをしたいほど、ご立腹でいらっしゃるのか? 俺は苦渋に顔を歪めながらも、命令通り雑に縛り上げる。
すると、佐渡様が鼻で笑った。
「ふんっ。……なんか、変な気分~」
「申し訳ありません、申し訳ありませんッ!」
「そういうのウザイだけだから要らないよ」
分からない。佐渡様のお考えが、全く分からないぞ。
佐渡様はネクタイが解けないか確認するように手首を動かしている。なにも言わないあたり、俺の縛り方に文句は無いようだ。
床で縮こまったまま俯いていると、ソファの上から名前を呼ばれた。
「真宵君? なにをしているの?」
顔を上げると、相変わらず不機嫌そうな表情で佐渡様が俺を見ている。
「サッサとボクのこと抱きなよ」
「こ、この状態の佐渡様を……ですか?」
「ボクの裸体には抱く価値が無いって?」
「正直痛いくらい勃起しております!」
佐渡様の裸を見て、なにも思わないわけがない。佐渡様がネクタイを解いた瞬間から勃起していたのだから。……とは、口が裂けても告白できないが。
いつもは俺を虐げ、暴力や暴言を浴びせる佐渡様を……今日は、俺が縛って好き勝手する。そういうプレイをご所望なら、誠心誠意お応えするのが真の豚野郎だ。
上着を脱ごうと、自身のネクタイに手を掛けると、佐渡様が口を開いた。
「待って。真宵君は必要最低限しか脱いじゃダメだよ」
「そ、そういうプレイなのですね……ッ」
「『プレイ』? ……あっ」
佐渡様はなにかを思い出したのか、突然、申し訳無さそうな顔をする。
「ごめんね。どういう趣旨でこんな身の程知らずなことさせてるか、言ってなかったね」
「いえ、理解しております。今日は佐渡様をぞんざいに扱え、という命ですよね?」
「は?」
佐渡様の目が、氷点下並に冷たいものへと変わった。
「え、なにそのジョーク。笑えない」
「ちっ、違うのですかっ?」
「殺意が湧くほどには不正解かな~?」
「ありがとうござ──申し訳ありませんッ!」
慌てて言い直すと、佐渡様がニッコリと微笑まれる。
「こんな状態のボクを真宵君が犯してたら、どう見える?」
脱ぎ散らかされた、佐渡様の服。
乱暴に縛り上げられた腕に、俺相手に力で抵抗できなさそうに見える、小柄な体。
そんな状態の佐渡様を、俺が犯す。……導き出される答えは、ひとつだ。
「──俺が自宅に無理矢理佐渡様を連れ込み、挙句の果てには強姦しているように見えますね」
「──そうだろうね~」
……。……はい? それが正解、なのですか?
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