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振り回され人生には自信がある
基本的に振り回される人生なのには、自信がある。
そう公言したらば、
「自慢になることじゃないのよ!」
と、シャチョー(と言ってやると嫌がるからわざわざ言う)が丸めたメモ用紙を投げつけてきた。
所属してる創作集団が拠点にしている4LDKのマンションの一室、事務所として使っているリビングじゃなくて、俺専用の作業部屋で。
キャッチした紙はクシャッと丸まった感じが面白いから、手の中で転がしてみる。
「りゅー、聞いてる?」
「うん、聞いてる」
「ちょっとは外に出たら?」
「出てる出てる。ここに通ってる」
「自宅から事務所って、あんたの場合徒歩5分じゃないの!」
「途中の公園によったりするから、もう少しかかってる」
「……行き倒れないでよ?」
「公園で? それは恥ずかしいなぁ…」
「平成のこの時代に、栄養失調で何度も救急搬送されてるやつが、それを言うわけ?!」
「あー……その節はお世話になりました」
「猫に贅沢缶詰食べさせてるんだったら、あんたがちゃんと食べなさいよ!」
「猫缶、不味そうじゃん」
「だ、れ、が、猫のご飯を横取りしろって言ったの!」
ぽんぽんと言葉を投げつけてくるけど、シャチョーはいい奴。
ホントにいい奴。
でも、ホントにいい奴なのは、シャチョーの旦那さんだと思う。
優しく厳しい――一歩間違えばキツイ――彼女を妻にして、創作集団の社長などという拘束時間の長い金になるかどうかも分からない職業につかせているんだから。
結婚当初は『じゃじゃ馬慣らし』とまで言われていたものだけど、あの人はホントによくできた人だ。
「で、たなさん、何の話だっけ?」
手の中の紙が、何となくペンギンの形になってきたから、納得して顔を上げた。
部屋の入り口で仁王立ちになっていたシャチョーが、呆れたようにため息をつく。
「りゅーさん、ホントにあたしはあなたのことが心配だよ……」
「感謝してるよ」
はぐらかすつもりはないけれど、笑って答えたらシャチョーは諦めたように本題に入った。
「人員の話は、さっきので終わり。あと、来月締めの仕事なら、一個とってきていいのね?」
「今のとこ多分ね。あ、でも、できたら文章はやめて」
「文章は適当に詰め込ませてもらいます。わがままが許されるのは、造形の方だけと思ってて」
「……はぁーい」
「じゃあ、それでよろしく」
そう言い置いて部屋を出ようとしたシャチョーが、思い出したように足を止めた。
「振込、あったから。いつものように処理しといた」
もう一個作ってみるか、と、適当なメモ用紙を丸めかけていた手が止まる。
いつもの振込と、いつもの処理。
そうか、今、月末なんだ。
「ああ、わかった。ありがと」
「スケジュールは組まないよ?」
「適当に何とかする」
「そ」
今度こそシャチョーが部屋を出ていく。
ホントにね。
振り回される人生なのには、自信があるんだ。
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