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俺のこと

 さて、ここで俺のパーソナルデータをあらためて明らかにしておこう。  |米戸隆司《よねと りゅうじ》、三十五歳。  通称はりゅー、もしくはりゅーさん。  普通に日本人の見た目、仕事が立て込んでる時には無精ひげ。  髪は長いほうが面倒なのと、気分転換にもなるので、割とこまめに散髪屋のお世話になっている。  身長百七十八センチ、見た目は太くもなく細くもなく。  根っからのインドア派で身体を鍛えるなんてことをしていない割には、学生時代からほぼ変わらないそこそこみられる体型をキープしていると思う。  職業は造形作家、という名の自由業。  それほどおおっぴらに売ってるわけでも顔を出しているわけでもないので、芸名というか、創作活動の時に名前を変えたりはしていない。  ありがたいことに、スポンサーあり。  現実的に仕事はといえば、自分で売り込んでいるわけではなくて、シャチョーの主催する創作集団に面倒を見てもらっている。  そのシャチョー。  大学時代の友人、|仁宮志緒《にみや しお》、旧姓田中。  故にたなさん。  創作集団っていうのは、基本的に学生時代の仲間で今でも創作にかかわっているもののプロデュースをしている会社。  っていうかもう、仲間内で面倒みあっているうちに、いっそ会社にしちゃえ的な?  そんな設立経緯。  シャチョーがたなさんで、よっさんという事務アシスタントがいる。  よっさんの奥さんがなおちゃんという絵本作家兼イラストレーターで、ますみちゃん――と呼ばれるガタイのいい男――が文筆業。  俺を含めて三人が所属クリエイターという形。  ただよっさんは、俺やなおちゃんのゴーストライターも兼ねていて、なかなかうまく文章を書いているので、シャチョー的にはアシスタント業からクリエイト業に移行させたいらしい。  いい人材がいれば、入社させると言っていた。  もしかしたら不慣れな間は、振り回すことになるかもしれない、と。  そこで、俺の冒頭のセリフに戻る。 「振り回される人生なのには自信がある」  どれくらい自信があるかっていう自慢をするならしよう。  俺の性的嗜好はゲイよりだってのに、結婚歴があるっていうくらいには、振り回されている。  スポンサーの一人娘に望まれて断り切れずに学生結婚し、子供も設けたのち離婚。  ちなみに生まれた子は娘で、現在10歳。  それだけでもシャチョー的には充分だというけど、まだある。  元嫁がいつの間にか飼っていて離婚の際に置いていった猫を、今でも飼って面倒を見ているっていうくらいには。  現在猫と二人(一人と一匹?)暮らし。  猫と暮らす俺の自宅は、結婚していた当時に元嫁の希望で買った新築一戸建てで、ここから徒歩5分ほどのところにある。  まあ、そんな元嫁のことを除いてもお付き合い歴はそれなりにあるが、離婚直後に付き合った相手に逃げられてからは、ここ3年ほどはとんとご無沙汰。  当然――というと一般的には語弊があるが俺の好み的には当然――相手は男性だ。  その相手も、押されて絆されて付き合って逃げられたという……これまた振り回され人生。  逃げられてから、俺マジ惚れしてたんじゃないの? って気がついたっていう、間抜けなオチつき。  浪人留年繰り返してたから、俺が卒業年度の時に大学に入学してきたあいつは、10歳も年下だった。  可愛いなぁと思ったさ。  正直、好みのタイプだったし。  けれどその時の俺は冷めきっていたとはいえ、既婚者だった。  ヤサぐれた離婚係争期間を経て、あいつが卒業年度の時に付き合い始めて、あいつの就職をきっかけに、自然消滅だ。  追いかけることも考えないではなかった。  けれど姿を消されたと気が付いた時には、そんな勇気を振り絞る元気はどこにもなかった。  もう、人と付き合うことに、疲れ切っていたんだと思う。  気持ちが残っているのかどうかを、考えることすらしなかった。  ただいなくなったことを受け入れて、諦めた。  そんな精神状態になっていたんだと気が付いたのは、最近のこと。  だから、まだ、そのことについては蓋をしたままにしてある。  でなきゃ立ち竦んでしまう。  スポンサーはそのままついていてくれるというのが、離婚の条件だったけど、作品が作れないんじゃ意味がない。  自暴自棄になっていた俺を拾い上げて、尻をたたきながら仕事をさせ、そのまま会社を設立しちまったシャチョーに脱帽、敬意を表す。  何度か行き倒れてる俺の面倒を見てくれたり。  スポンサーから振り込まれる金の管理をしてくれたり。  養育費の支払いをしてくれたり。  仕事とってきてくれたり。  事務所を別にかまえて通勤せざるを得ないようにしてくれたり。  至れり尽くせりありがとう。  嫌味じゃなくて、ちゃんと本気で。  まあ、そんなこんなで。  アラフォーの域に入りながらも、何となく流されてよれよれと生きてる。  それが、俺。

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