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確かにあるもの

 そして、真夏のくそ暑い日々。  今日も今日とて事務所はにぎやかだ。 「没よ没! 当たり前でしょ! っていうか、リテイク。やりなおし」  サンプルとして作ったクレイアニメと、それに使ったジオラマを見て、シャチョーが勢いよく言い渡す。  人の苦労無視して、よく言った!  冗談じゃねえぞこんちくしょう。 「んでだよ?」 「りゅーさんとてっちゃんがラブラブなのは事務所じゃ普通になってるけど、世間一般的に堂々と見せびらかされたら、困惑する人もいるの! 全国放送の公共電波使って、のろけようとするんじゃない!」 「気にしなきゃ、わかんねーだろ?」 「はあ?」 「たなさんが俺たちを知ってるから気になるんであって、気にしなきゃ、わかんねえ」 「……」  やってみてもいいかな、程度だったクレイアニメの依頼は、結局引き受けた。  俺個人というよりはウチの事務所が関わる感じで。  なおちゃんがかいた歌詞はもの凄く簡単なもの。  ただ単に、子供が好きなものを列挙してるだけみたいな。  でも、それがホンワカ幸せになるみたいな。  だから、奇をてらったのじゃなくて、単純に「幸せそうな人たちのいる風景」を作った。  一人でも楽しそうなヤツやら、走り回る子供やら、家族に夫婦、妊婦。  そんな人たちが生活してるだけのもの。  温泉だったり事務所だったり公園だったり、どことは限定できないけど、畳二畳分の板の上の町。  そこに、事務所の面々をいれた。  もちろん俺とてつは一緒にいる。  公園を散歩している二人連れ、という風情で。  そしたらあっさりとシャチョーに見つかって、没宣言をくらってしまったというわけだ。 「どう見ても男の二人連れに見えちゃうんだよねぇ……せめて、衣装を変えて」 「ん?」 「てっちゃんにエプロンつけて。事務所でつけてるようなやつ」 「何故に?」 「それなら、りゅーさんの作りたいものから外れないでしょ。クライアントに突っ込まれても言い逃れできるから」  眉間をもみながらシャチョーが言う。  俺の作りたいものはわかっているようだ。  だから、撤去しろとは言わない。 「……じゃ、これ追加する」  一つの人形と取り出して、横に置いた。  ベージュのシャツと茶色のパンツ。撫でつけた髪に白髪のメッシュが入ったような、細身の壮年の男。  右手に白い手袋をはめている。 「男三人に見えたら、文句ねえだろ」 「うーん、まあ、これなら。ってか、誰、これ?」 「さあ?」  作っているモノがわかっているだけに、脈絡なく見えるだろうその人形を、シャチョーが凝視する。  問われたけど、笑ってごまかした。  シャチョーの勢いが収まったとこで、きりが付いたと気が付いたのか、他のメンバーが寄ってくる。  画面では見せていたけど、自分がジオラマのどこにいるかは気になっていたようだ。 「あ、ますみちゃん」 「コンビニ一人飯」 「よく見てるよねぇ……」  ガタイのいい男の一人飯を見つけて、笑う。 「この妊婦、なおちゃん?」 「じゃあ、荷物持ちはよっさんだね」 「ほんと、よく見てる」 「たなさんは? どこ?」  ワイワイと眺めているところに、休憩用の茶を入れていたてつが合流する。  上から覗き込んだてつが、きらっきらした顔でこっちを向いた。 「つくったんだ」 「ん?」 「ねこ。そうだな、これくらいの年齢になるよな」 「ああ、わかったか?」 「前足のタビとメッシュ」 「そか」  てつの言葉で正解に気が付いたシャチョーが、ものすごく無表情になった。 「りゅーさん、最近、のーみそわいてる?」 「いや? 絶好調だけど?」 「知ってたけどっ 知ってたけどムカつくわ、何このバカップル!!」  そんな彼女の人形は、旦那さんと楽しそうに新しい部屋を用意してる。  切りとられた風景。  幸せの形はそれぞれ。  でも、たしかにそこにあるもの。 <END>

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