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自分にできること

 何かを作れる自分ではなくて、自分に何ができるかを考えていたら、こうなったと言っていた。  一戦終えた後、てつが俺の腕の中で、そう言った。 「シャチョーが?」 「そう。たなさんが」 「意外だな」 「『自分はゼロから作り出すより、生み出されたものを使う方が向いてる』って。それに気が付いたからこの仕事をはじめられたし、皆と一緒にいるのが楽になったって」  てつが戻ってから、何度目かの一緒に過ごす夜。  家に泊まるのも一緒に夜を過ごすのも、再会当初はいろんな意味で抵抗があったようだけれど、それもつかの間、言いくるめて実力行使して、全部を愛でた。  戻ってくれたなら離せるわけがない。  熱を放って落ち着いてから、ふと思い出したんだ。  ますみちゃんの言い分を真に受けたわけでもないけど、何にどう抵抗があったのかを聞き出しているうちに、話がシャチョーのことになった。 「オレも、そう」 「てつも?」 「一緒にいて何か力になれてる実感なかったし、釣り合い取れてないって思ってた。りゅーさんはどんどん前に行くし、オレは思ったように作品も作れなかったしキャリアもなかったし」 「たかが学生に誰もそんなキャリアなんか求めてないぞ?」 「今ならわかる。でも、あの時は自分で追い詰めてた。『オレじゃ、りゅーさんには釣り合わない』って」  ガキでごめん、と。  てつの額が俺の首元に埋められる。  てつの髪がくすぐったくて、体を震わせた。 「りゅーさん?」 「髪、くすぐったかった」 「ここにくっつくの、苦手?」 「ちょっと」 「オレは好きなんだけどな」  あったかいしりゅーさんの匂いがよくわかる。  そう言ってすりすりとわざとくすぐったいようにしながら、てつがすり寄る。  鎖骨に噛み付かれてさっきとは違う震えが走った。 「てつ、ほどほどにしろよ」 「なんで?」 「歯止めが利かなくなる」 「いいよ」 「俺は明日事務所に行きたい」 「行けば?」 「お前ほど若くねーんだよ」 「アラフォーだから?」 「おう、お前より十年長生きしてるからな」  そう言った時には笑っていたてつが、急に痛い顔をしてしがみついてきた。 「どうした?」 「何もない」 「何もないことはないだろ?」 「……オレが八〇歳まで生きてようと思ったらさぁ」 「ん?」 「りゅーさん、九〇歳まで頑張んなきゃなんないんだよな」 「悪いけど、俺にそんな根性ねーから」 「うん、知ってる」  何を急に寿命の話をしてるんだ、と思ったけれど。  俺にはあまりなじみのないことでも、介護の仕事に就いていたてつには、そうじゃなかったのかもしれないと思い直して、そのまま話を続けさせる。 「なんか、オレ、りゅーさんを一人にしてばっかだな」 「はい?」 「りゅーさんはダメな人だからさ、一人にしちゃいけないって思うんだけど……思ってたけど支えきれなかったし。今は二人とも元気だけど、いずれはどっちかが先に逝っちまうし。残されても先に逝っても、一緒にいないのは変わりねえし」 「どっからそんな話?」 「りゅーさんがオレより十年長生きしてるってとこから」 「ごめん、ついてけてねーわ」 「オレも何言ってんのかわかんなくなった」  止めろと言っていたのに首筋にぐりぐりと額を摺り寄せてくる。  この、無意識の破壊力。 「難しく考えなくて、いんじゃね?」 「りゅーさん?」 「あと何年とか、今何歳とか、ずっとってどこまでとか、そんなんいらねえからさ」 「うん」 「でもまあ、どっちかがくたばるまで、一緒に居よう」 「ああ、そうだな」  すり寄ってきてくれてんだから、そのまま腕の中に身体を閉じ込める。  温かい肉体。  俺が生殺与奪権を握っているって感じのしない、しなやかな身体。 「りゅーさん、好きだ」 「頼みがある」 「何?」 「明日、事務所行ける時間に起こして」 「りょーかい」  額に口づけを。  柔らかな耳たぶを食んで、わざとリップ音を聞かせる。  耳の後ろを耳骨にそってくるりと舐める。  一緒に居よう。  もう、それだけでいい。  時々こうやって体温を分け合えたら、それで天国。  くすくすと笑っていたてつの声が、気持ちよさそうな音楽にかわる。  永遠でなくてもいい。  ここに、てつがいてくれたら、それでいい。 「…っ…ぁ……りゅー…さ…」  甘く上がる声が耳に嬉しい。  ころりとうつぶせにして、さっきの名残でまだ柔らかい場所を、指で確かめる。 「ん……あっ、や……焦らさな…い、で……」 「ん。いいか?」  こくこくと首を縦に振るから、ありがたく言葉に従う。  もうしっかりと猛った俺自身を、とろとろのとこにあてがって、ゆっくり腰を進めた。 「ひゃっ…ああっ……あ、も……」 「声、聞かせて」 「りゅーさん…好き…すき……す、き…ああっ」  うつぶせのてつの上にピタリと体をくっつけて、指を絡ませた両手をベッドに押し付ける。  世界中に愛してるって、宣言したいとか、そんなおおげさじゃなくて。  そこにあればいい。

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