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第4話
それから僕はとにかく人気のある場所を探すことでなんとか学生寮へと辿り着くことができました。
既に入学式が始まった頃でしたので先生方には注意されましたが、道に迷ったのだといえばなんとか途中からでも参加することを許可していただきました。
それから暫く、入学式を終え、僕は自室へと戻ってくることが出来ました。
この学園では二人一部屋の相部屋のようで、先程挨拶できなかったルームメイトがそこに居ました。
「ああ、お前が神代か。入学式早々いねーからやべえやつくるのかと思ったけど、案外まともそうで安心したわ」
ルームメイトの方は早川君というそうです。明るくて僕にもフレンドリーな良い方です。
なんとなくアキ兄を思い出し、初対面なのにも関わらず僕は安心しました。
「よろしくお願いします、僕は神代雪尚と申します。……今朝はその、少し迷子になってしまって挨拶が遅れてしまいましたがよろしくお願いします」
「あーそういうこと。つかなんで敬語なの?」
「これはその、生まれつきです」
「なら仕方ねえわな。ま、気が向いたら全然呼びタメでいいから」
「……よびため……?」
「うわマジか……」
というわけで、早川君というお友達ができました。早川君は明るくて舌がよく回る方なので、ホームシックにならずに済みました。
早川君と話してるとあっという間に日が暮れます。
「そろそろ風呂入りに行くか」
この学園は一階に大浴場があり、学年ごとにその入浴時間が決められていました。そして今は一年生の時間です。
僕たちは着替えなどを持って一緒に大浴場へと向かいます。
大浴場には既に数人の生徒がいました。何人かが僕の方を見てることに気付き、今朝のことを思い出してしまいます。
乳首が浮いてるのではないかとなるべく胸元は隠していたがそれが返って不審に思われたのかもしれません。それに、あの用務員の方が特殊なだけで僕はどっからどう見ても健全な男です。こそこそする必要はない。そう思い、僕はロッカーを決め、すぐに服を脱ぎました。
早川君は僕の隣のロッカーを使うようです。こうして並ぶと、同い年にも関わらず早川君との体格の差に驚きます。
早川君は僕の方をちらりと見ます。
「……なんか、お前の裸見てると罪悪感あるな」
「何故ですか? ……やっぱり、僕の体おかしなところがありますか?」
「いや、おかしいってか……いや、やっぱやめよこの話。ナシナシ」
「……き、気になります……遠慮しないでください。僕、何言われても耐えれる自信はありますので」
慌てて、逃げようとする早川君の腕にしがみつき、捕まえようとすれば早川君はぎょっとしました。それでと逃しません。おかしなところがあれば、なるべく直す。やはり世間慣れしていくことが僕には必要なことだと思いました。
じわりじわりと早川君の顔が赤くなります。
「……っ、いや、神代落ち着け……お前がよくても俺が気にする、てかぜってー引きずるから」
「そんなにおかしいでしょうか……」
「いや、違う、なんつーか……っ」
早川君の目が、そのまま僕の胸に向けられてることに気付きました。タオルで隠すこともせず、晒したままになっているそこは外気に宛てられ固く尖っていました。それでも早川君だって、他の生徒も同じです。
「……やっぱり、僕の乳首はおかしいのでしょうか」
「はえ?!」
「……早川君も、女みたいだと思いますか?」
二人の兄に弄られすぎて縦に伸びたそこは少し勃起しただけでも薄手の衣類では浮くほどでした。用務員さんの言葉を思い出し、ずんと落ち込んでいると早川君はぶんぶんと首を横に振って否定してくれます。
「いや、違くて……その、……」
「……はい」
「さっき何言われても落ち込まないって言わなかったか? 傷付いてないか今?!」
「……っ、だ、大丈夫です……覚悟はできてます……」
そう、じっと早川君を見つめれたとき。
早川君はむぐ、と言葉に詰まり、そして観念したように目を瞑りました。
「いいか、これには深い意味はないからな。気にするなよ」
「わ、分かりました……」
「…………」
「…………っ」
そう、ごくりと固唾を飲んだ時。早川君の顔が近づき、耳元に唇を寄せられます。
「……正直、すげえエロい」
そして囁かれたその言葉は僕が予想していた罵詈雑言ではありませんでした。
熱の籠もったその目に、声に、隠されたタオルの下勃起していた性器に気づいた瞬間、まだ湯船に浸かってもいないというのに全身は茹だるように熱くなりました。
「っ、早川君、それは……」
「あーっ、やめろ! その目は! ……いや大丈夫だからな、俺は断じてその趣味はないから安心してくれ。ただ、ただの、それはそれとしてお前の裸はわりと……キたなと」
早川君本人も戸惑ってるようでした。
心臓がドキドキして、更に胸に血液が流れるのを感じながらも僕が言葉に迷ってるの早川君は焦ったように僕から身体を離します。
「わりい、嫌……に決まってんだよな。俺、どうかしてたわ。その、まじ……悪い」
「いえ……寧ろその、僕は安心しました」
「え?」と早川君がこちらを振り返りました。これ以上気を悪くさせないためにとタオルを胸を隠していたのですが、思い切って僕はそのまま早川君の前で胸からタオルをずらしました。
はらりと両胸の乳首が露わになり、早川君の視線が突き刺さるのを感じながら僕は早川君に微笑みかけます。
「っ、ま、待て、神代」
「気持ち悪いと思われてたりでもしたらと思っていたのですが、早川君に受け入れていただけて……僕、嬉しいです」
「ああ、それはよかった。良かったけどな、神代……ッ」
そのままぴたりと早川君にくっつけば、体の下、早川君の筋肉がびくりと跳ねます。焼けるほどの熱に、思わず気持ちが高揚しました。そしてこみ上げてくるのは慈しみにも似た……――。
「……早川君さえ良ければ、僕のこと好きに使ってくださっても構いませんよ」
「……な、に……」
「好きな相手にはこうすることが一番気持ちが伝わると、兄さんたちに教えていただきました。……僕は、早川君と友達になれて嬉しいです」
なので、とそのまま早川君に抱きつこうとしたときでした。早川君に肩を掴まれ、そのまま身体を引き剥がされます。
「神代……ッ!」
「はい」
「お前の、お前の気持ちは嬉しい。嬉しいけどな。……………………っ、取り敢えず、風呂にしよう」
ビクビクと勃起した性器をタオルで必死に隠しながらそんなことを言う早川君がただ不思議でした。「抜かなくていいのですか? 手伝いましょうか?」と聞いたら早川君はぶんぶんと首を横に振り、「お前はもっと自分を大切にしてくれ」と言われました。
結局その後、部屋に帰ったあと二人きりになれば変わるのかもしれないと思ったのですが、早川君は早々にベッドにもぐります。そのまま僕もそのベッドにもぐり、その広い背中に胸を押し付けるようにくっつけば、早川君は飛び起きました。
「か、神代……」
「はい」
「お前、さっき自分のことを好きに使っていいって言ったよな」
微かに焦燥感を滲ませた早川君に尋ねられ、僕はこくりと頷き返します。もしかして受け入れてもらえたのだろうかと嬉しくなった矢先でした。早川君は僕を布団でぐるぐるに包め、そしてその上から僕を抱き締めます。
「早川君、これは一体……? そういう“ぷれい”なのですか?」
「……取り敢えず、今日は一緒に寝るところから始めるか」
「? はい、ですがこれでは……」
「神代、お前は今日は抱き枕だ」
「だきまくら……」
「そうだ、だから今日はこのまま大人しく眠ってくれ」
真面目な顔をする早川君に気圧され、僕は頷くことしかできませんでした。それから僕は宣言通り早川君の抱き枕にされます。
布団越しで、身体に直接触れられることはありませんでした。ですが、すぐ傍で聞こえてくる早川君の寝息と心音のお陰で安心して眠ってしまったようです。
実家では毎晩二人の兄どちらか、或いは片方に抱かれて過ごしていたのでなにもなく朝を迎えることはひどく久し振りのことでした。
「……なるほど、こういう方法もあるんですね」
すやすやと眠る早川君を見詰め、僕は再び早川君の腕の中に収まりました。
早川君は博識です。もっとこれから早川君と仲良くなって色んなことを教えてもらえると思えば毎日が楽しみになりました。
おしまい
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