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「モルグさん?」
「や、善家君。随分と楽しそうな話していたからつい来ちゃった」
言いながら、俺の隣の椅子を引いて腰を掛けるモルグ。休憩中だったのだろうか、いつもの白衣は着ていない。
「なにが楽しそうだ、このハイエナ野郎」と噛みつくノクシャスに構わず、モルグはニコニコとこちらを覗き込んでくるのだ。
「それにしてもそのスーツもよく似合ってるね、新鮮だなあ」
「あ、ありがとうございます……! モルグさんはお仕事終わりですか?」
「だといいんだけどねえ、このあとまた研究室に戻らなきゃなんだよねえ」
「た、大変そうですね……」
「だったらこんなところで油売ってねえで戻ったらどうなんだよ」
「ん~大丈夫大丈夫、僕には優秀な部下たちがいるからねえ。多少遅くなっても問題ないよ」
それは本当に大丈夫なのだろうか。未だにヴィランたちの常識非常識が掴めていない俺だが、ノクシャスの顔からしてアウトのようだ。「お前これ以上身内に敵増やしてどうすんだよ」と呆れるノクシャスに、「まあそんなことよりさ」とモルグは露骨に話題を変えてくる。
「ノクシャス、君が自分の話しをするなんて珍しいじゃないの? そのスーツも、気に入ってくれてたみたいで嬉しいなぁ」
「だーっ、クソ鬱陶しい絡み方すんじゃねえ……ッ!」
「とはいえ、そのスーツにそういった思考回路に関与するような機能は備わってないからねえ。僕が白衣着ると『やるか〜』ってなると同じとこかな」
確かに以前ノクシャスのスーツは特別だと言っていたのを聞いた。
先程は物騒な内容とモルグの登場に気を取られていたが、そう考えるとなんだかわかる気がする。
「けど意外だなぁ、ノクシャスがそこまで善家君に対して気を遣ってたなんて。怖がられてること気にしてたもんねえ」
「え?」
「はッ?! おいテメェこれ以上余計なこと言ったら……」
「あ、そーだ。ナハトも呼ぼうよ、せっかくだし三人で善家君の就職祝パーティーしよっか?」
「え、え、ナハトさんもですか?」
「そうそう、だって今日という日は今日しかないんだからねえ」
「なに勝手なことしてやがんだよ! おい!」
ノクシャスを無視して光の速さでナハトに連絡するモルグとそんなモルグに振り回されるノクシャス、そしてこの短時間で色々なことが起きて目が回りかけてる俺。なんだかこの感じ、酷く懐かしく感じてしまう。
モルグにバラされたことが相当恥ずかしかったらしい、ノクシャスの顔がやや赤い。
「あ、ナハト〜?」と席を立つモルグを見送り、俺はノクシャスに「ノクシャスさん、ノクシャスさん」と小声で話しかけた。
「……うるせえ、何も言うんじゃねえ」
が、すっかり臍を曲げているようだ。
「ノクシャスさん、そんなに気にしないでくださいね。俺、寧ろノクシャスさんにそう言う風に優しくしてもらえて嬉しいので……っ!」
「だからちげ……っ、くそ、もうあいつの言うこと真に受けんなよ。いいな?」
「え、でも……」
「でももクソもねえ、『はい、わかりました』だ!」
「は、はひ……」
そんなに怒らなくてもいいのに、と思いつつもそれ以上なにも言えなかった。けど、俺がいないところでのノクシャスがどんな風に俺のことを考えてくれてたのか知ることができたのは良かったかもしれない。……バラされる形ってのは可哀想だけど。
「あ、ナハト今から来るってよ〜」
そしてナハトに連絡が繋がったようだ、ちゃっかり自分のドリンクを手にして戻ってきたモルグにノクシャスは「まじかよ」と呆れてた。
「あいつ任務は?」
「丁度終わったんだって〜」
「……丁度、なあ?」
「ナハトもノクシャスも本当善家君のこと大好きだよねえ」
「え、えと……」
「だから俺も巻き込むんじゃねえ!」
「あ、勿論僕も善家君のこと好きだよ〜」
「ありがとうございます……」
やはりいくらなんでも面と面向かって好意を向けられると照れるものがある。けれど、悪い気はしないし寧ろ嬉しい。モルグの後ろでノクシャスがなにか言いたげだったけれども。
「……ねえ、アンタたち。騒ぎすぎ」
そんなときだった。音もなく現れたその人物に驚いた。
「な、ナハトさん……!」
「わ、ナハトもう来たの? 早いお帰りだねえ」
「……アンタたち二人と食事とか、絶対ろくなことにならないと思ったから急いだだけだし」
本当に急いでくれたのか、と思わず感動しそうになるのもつかの間。
「ねえ、この席目立つから嫌なんだけど」
「目立つのは君とノクシャスなんだけどねえ。ま、丁度奥空いてるらしいからそっち移る?」
「面倒臭えな……我慢しろよ」
「俺、どこかの悪目立ち脳筋肉達磨と違って顔バレ避けなきゃいけないから」
「このガキ……」
「んじゃ、そういうことらしいから善家君も、持っていきたいのあったら言ってねえ。運んでもらうから」
「あ、俺は大丈夫です。食べ終わってたんで」
「りょうか〜い」
本当、なんだかんだこの場にモルグがいてよかったかもしれない。俺一人だったらノクシャスとナハトを上手く止めれる気がしない。
というわけで、二次会……というほどでもないがひと目を避けるために個室へと場所を移動することになったのだが、大体この面子が揃った時点でただの楽しい平和な食事になるはずがないとはわかりきったことだった。
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