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 サディークが出ていったあと、暫く俺は転がされていた。腕が拘束されているだけなので、頑張って立ち上がろうとすれば立ち上がれないこともない。  必死にジタバタと動きながらも起き上がろうとしたときだ。再び扉の向こうから足音が聞こえてきた。  誰か来た。  そう身構えたときだ、乱暴に開かれる扉にぎょっとする。  ――現れたのは金髪の派手な男、デッドエンドだった。 「ひっ」と思わず声が漏れたとき、「ああ?」とデッドエンドはこちらを見下ろす。そして、口元に凶悪な笑みを浮かべた。 「なーんだ、そんなところにいたのかよ。探したじゃねえか」  先程暴れて隔離されていたデッドエンドとは打って変わってやけにフレンドリーなデッドエンドに戸惑う。  ……なんだか嫌な予感がする。 「で、デッドエンドさん……っ」 「そんなにビクビクすんなよ。お前が妙な真似しなかったら別に爆発させるような真似しねえよ」  これ、と目の前までやってきたデッドエンドにシャツの襟首を引っ張られる。  そうだ、色々あって忘れかけていたが、俺の身に着けているスーツが爆弾に変化しているのだ。この男の意思で爆発すると思うと、いくら安生からのチートアイテムがあろうと無闇に刺激しない方がいいのは間違いないだろう。 「良平だったか? ……アンタ、随分と幹部の連中に気に入られてるらしいな」  とにかく下手に触れないでおこう、と唇をきゅっと結んだ矢先だった。  デッドエンドの言葉に内心ぎくりとした。 「安生にナハト……ノクシャスの兄貴まで。なあ、おかしくね? なんでお前みてえのが贔屓されてんだよ」  嫉妬、というよりも、なんだろうかこれは。少なくともデッドエンドに向けられる感情が決していいものではないことは分かった。  なにも答えられず押し黙れば、「だんまりか?」とデッドエンドにネクタイを掴まれ、強引に顔を正面向かされる。 「――どうやってあの人たちに取り入った?」 「……っ、そんなこと、聞いて……どうするんですか?」 「どうもしねえよ。……ただ、興味あるだけだ。こんなぽやぽやしてアホヅラの一般人囲うほどあそこは落ちぶれたのかと思ってな」  俺のことを馬鹿にされるのはまだいい。けれど、俺のせいで周りの人たちまで馬鹿にされることに対してむかむかとした感情が込み上げてくる。  ――これが怒りなのだろうか。初めてだ、他人に対してこんな風にムカついたのは。 「……っ、落ちぶれてなんていません。皆さんすごい方ですし、確かに俺はアホヅラの一般人かも知れませんけど……っ!」 「ああ? なんだよ、急に元気になりやがって」 「デッドエンドさんだって元々ノクシャスさんの部下だったんですよね、だったらどうしてそんな言い方――」  するんですか、と言いかけたとき。伸びてきた手に口を塞がれた。 「んむ……っ!」 「うるせえな、テメェに関係ねえだろ」 「んむ、むうう……っ!」 「つかテメェ、立場分かってんのか? 誰に対して口答えしてんだよ……っ!」  しまった、と思ったが俺にだって譲れないものがある。爆発するのならしたらいい。そうすれば拘束も外れるんじゃないのか。  そう半ばヤケクソになりかけたときだった、苛ついたように舌打ちしたデッドエンドはそのまま人を足払いするのだ。 「う、わ……っ!」  バランスが崩れ、転倒する。転んだ拍子に爆発するのではないかとヒヤヒヤしたが、どうやら外部の衝撃は起爆には関与しないようだ。  慌てて体勢を取り直そうとしたときだった。目の前に立ったデッドエンドの足がそのまま俺の下半身を踏み付けるのだ。 「っ、あ、や……っ、なにして……っ!」 「まともにも受け身も取れねえし、とろいし、立場も弁えねえ。……そんなんで可愛がってもらえるなんておかしいよな、なあ? そう思わねえ?」 「っ、ん、あ、足……っ、退けて下さい……ッ」 「はっ、感度だけはいいんだな……」  踏み潰されるのではないかという恐怖。そして、ただでさえ触手のせいで火照っていたそこを刺激されて条件反射で反応してしまう自分が恥ずかしくなる。 「ん、う……っ」  厚底スニーカーの底の凹凸加減が絶妙に気持ちいい、など口が裂けても言えない。  反応しないようにぐっと唇を噛みしめるが、そのまま膨らんだそこを柔らかく圧迫されるだけで頭の奥がじんわりと熱くなっていく。次第に呼吸は浅くなった。 「っ、ん、ぅ……っ、で、デッドエンドさん……っ、どうして、こんなこと……っ」 「……」 「……? デッドエンドさ――っ、て、なんで勃起してるんですかっ?!」  先程まであれほど饒舌だったのに、急に黙り出したデッドエンドが気になって顔を上げたときだった。丁度視界に入ったそこに思わず声を上げてしまう。 「う……うるせえ! 黙れ! テメェが……テメェが変な声出すからだろうが!」 「え、ええ……っ?! だってデッドエンドさんが……ぁ……っ!」 「『ぁ……っ!』じゃねえんだよ、テメェ……っ! クソ、ふざけんじゃねえなんで俺が……っ! お前みてえな……っ」 「っ、ん、ぁ……っ、待ってくださ、ふ、踏まないで……っ、んんぅ……っ!」  苛ついたデッドエンドにあまりにも雑に電気アンマされた瞬間、下着の中でぬるぬると性器が反応していくのがわかって恥ずかしくなる。  というか何故俺がキレられるのだ。とにかく止めなければまずいと思うのに、腕を後ろ手に拘束された現状、そのままデッドエンドの足を受け入れることしかできなかった。 「ぁ……っ、は、……っ、や、やめて……も、……っ、ん、ぅう……――ッ!」  やばい、と思った矢先のことだ。  ほんの少しデッドエンドが靴裏に力を挿れて圧迫した瞬間、靴裏にあった性器が跳ね、下着の中で精液が溢れた。 「は、ぅ……っ」  びく、と腰が震え、全身から力が抜け落ちていく。俺がイッたことに気付いたのだろう、デッドエンドは「ハッ」と馬鹿にするように鼻で笑った。 「な、なんだよ……お前ドMか? こんなことされて喜ぶなんてな」 「っ、デッドエンドさん……どうして……っ」 「ああ? 言っただろ、テメェ見てると腹立つんだよ」 「で……でも、デッドエンドさんだって勃起してるじゃないですか……」 「うるせえ! 生理現象だって言ってんだろ!」 「い、言ってないと思います……」    しかし刺激されたわけでもないのに反応するなんて、余程なのか。  それにデッドエンドの態度からしてピリついていることには違いないだろうし……。 いつの日かのモルグとのやり取りを思い出す。が、思い出さなくてもいいことまで思い出してしまい思考を止めた。  そして、 「デッドエンドさん、もしかして……溜まってるんですか?」  そう、単刀直入にデッドエンドに尋ねた瞬間、デッドエンドがぴしりと固まったのを俺は見た。  そして、じわじわと耳まで赤くなっていくのを見て俺はハッとした。 「あの、昔聞いたことがあります……男性の場合は適度に抜かないと逆によくないと……もしかしたらデッドエンドさん――」  欲求不満というやつでは、と言いかけた次の瞬間にはデッドエンドの手が顔面に伸びてきた。 「むごっ」と塞がれる口元。鼻までは塞がれなかったお陰で呼吸はできるが、これは。 「テメェ、こっちが黙ってりゃ言いたい放題言いやがって……っ!」 「むご、むごご……っ!」 「うるせえっ! どいつもこいつも羽虫の野郎の言うことばっか聞きやがって、リーダーは俺だっつってんだろ!」 「もご……っ?!」  どうしてここで羽虫の名前が出てくるのだ、と思った矢先だった。口から手が離れたと思えば、その指先はそのまま乱暴にネクタイを掴み、そのまま引き寄せてくるのだ。 「い、う……っ! で、デッドエンドさん、落ち着いてください……っ」 「元はと言えばテメェのせいだろ、なあ? そうだよな、人質」 「俺は人質じゃなくて――んむっ」  良平という名前があります、と言いかけた矢先。空いた手で頭を抑えつけられ、そのまま開きかけた唇に下腹部を押し付けられるのだ。 「む、ぅ……っ」 「――っ、しゃぶれよ」 「んむ……っ?!」 「ここで木っ端微塵、吹き飛ばされたくなかったら……俺の言うこと聞け」  良いな、とヴィランらしい顔でヴィランのようなことを言い出すデッドエンドに、俺はああそういえばこの人はヴィランなのだと気付いた。

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