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 たった数秒の間気を失っていた気がする。  ふがっと目を覚ませば目の前には肌色一色、胸筋に埋もれて眠ってた俺は何事かと飛び起きる。そして、すぐに状況を理解した。 「……あぁ? なんだ、起きたのかよ」 「の、ノクシャスさん……っ、ん」  ――社員寮自室・寝室のベッドの上。  あれから気絶していたらしい俺はノクシャスの腕の中で爆睡してたようだ。そして、一緒に眠っていたノクシャスは起きる俺に釣られて目を覚ましたらしい。大きく口を開き欠伸をするノクシャスは、そのままのそりとその巨体を起こすのだ。 「……体、平気か」  そして、まだ眠たそうな顔をしてこちらへと視線を投げかけてくるノクシャス。  寝起きだからか声がいつもよりも低いが、その響きはどことなく柔らかい。  普段寝起きのノクシャスをなかなか見ることなかったせいだろうか。それとも昨夜のあれのせいか。なんだかどぎまぎしながら俺は「は、はい」と頷いた。  嘘、ではない。毎度のことではあるが、ノクシャスとの行為後はやはり体のあちこちにガタが来る。  それでも大分慣れてきたのかもしれない、或いはそういう風に作り変えられつつあるのか。初めてのときよりはまだマシだ、というのはあった。  ……相変わらず、下半身の痺れたような感覚は抜けないが。  そうか、とぽつりと呟いてそのままノクシャスは乱れていた髪を掻き上げながら端末を起動する。 「つうか今何時だ……うわ、寝すぎた」 「ノクシャスさんもお休みになられてたんですね」 「……お前が寝ろっていうからだろ」  普段はなかなか見られない光景になんだかまだふわふわとした気分だった。そのままノクシャスを見上げてると、ちらりとこちらを見たノクシャスはそう俺の後ろ髪を撫で付けるようにそっと撫でてくるのだ。 「ノクシャスさん……」 「昨日は、その……悪かった。……色々、大人気ねえこと言って」 「……大人気ねえことですか?」  なんだっけ、と思い返そうとし、一気にあらゆる記憶が蘇る。そして、そのときノクシャスにぶち撒けられた感情にも。  瞬間、顔面に熱が集まる。 「い、いえ! ……俺の方こそ、ノクシャスさんの気持ちを考えずに軽はずみなことを言ってしまい、その、すみませんでした……っ!」 「テメェが謝るのはおかしいだろ」 「そんなことはありません! だって、まさか、ノクシャスさんがそんなに――」  ――そんな風に、俺のことを考えてくださっていたなんて。  と、言い掛けて自分でもあまりにもおこがましいのではと更に顔が熱くなった。そんな俺に、ノクシャスは「あーもういいから黙れ」と俺を抱き締めるのだ。むぐ、と再びその上半身に飛び込む形になる。温かい。ノクシャスの体温に包まれ、再び眠気が襲ってくる。 「の、ノクシャスさん……」 「……ったく、お前といると、調子狂わされてばかりだな」 「い、嫌……ですか?」 「…………」  恐る恐る聞き返せば、ノクシャスは眉間に皺を寄せたまま俺を睨み返すのだ。そして、 「むぐっ」 「……テメェ、それわざとか?」 「の、のふひゃふはん、ほれやめへふらはい~~っ!」  鼻を摘まれ、ふがふがとノクシャスの手から逃れようとしていた矢先だった。視界が真っ暗になる。 「ノ……」  キスされると予感したときにはすぐに鼻先にノクシャスの顔があり、開いた口から尖った歯が覗くのを眺めながら俺は抵抗をやめていた。 「……っ、ん、ぅ……っ」  伸びてきた舌に唇を舐められ、つい口を開いて舌を招き入れてしまう。  大きな舌にずっぽりと絡められ、捕食されるみたいに甘く舌の先っぽを擦り合わされるだけで下半身がじんわりと熱くなってくるのだから恐ろしい。  呼吸が間に合わずに息苦しさに震えていると、ノクシャスは慌てて俺から舌を抜いた。とろりと唾液の糸が伸び、ノクシャスはそれを舐めとる。 「……良平」  呼吸を整えてる間に、伸びてきた大きな手に太腿を撫でられ、そのまま足の付け根までゆっくりと撫でるように這い上がってくるノクシャスの掌に息を飲んだ。今のキスだけで反応し始めていた寝間着の下、膨らんだ性器を服越しにノクシャスに揉まれる。逃げ場などなかった。  まずい。まずい。また、この流れは。この空気は。  甘ったるい蜜のような空気に流されては駄目だと頭で思うが、そのまま大きな手のひらで柔らかく包み込むように性器を揉まれ、弄られ、もう片方の手で胸をまさぐられながら優しくキスされる。  極めつけは、尻の辺りに押し付けられるノクシャスのブツである。既にガチガチになってるのを下半身に押し付けられ、耳元で何度も切なそうに「良平」と呼ばれると頭の奥の大事な部分が溶けていくみたいだ。  平らな胸を撫でられ、二本の指で挟むように乳首を刺激される。 「っん、ぅ……ゃ、んむ……っ」 「は……っ、良平……」 「ら、め……っれふ、これ、以上は……」 「なんで駄目なんだよ」 「っぁ、え」  ぐにゅ、と尖った乳首の先っぽを潰された瞬間、太い針に刺されたような刺激に大きく仰け反る。  逃さないとでもいうかのように、そのまま今度は少し乱暴に乳首を引っ張られ、じんじんと痺れていた先っぽを引っ掻かれた瞬間下着の中がどんどん先走りで滑っていくのがわかった。 「な、な、なんでってぇ……っ」 「……」 「ぁっ、ん、ぅ……っ、ぐりぐり、だめ……っ、ノクシャスさんの指、おっきぃ、から……っ、ぁ、……っん、ぅ……ッ!」 「……っ、は……お前、言ってることマジで無茶苦茶だな」 「っ、ぅ、ひ……ッ!」    ぎゅっと先っぽを絞るように乳首を凝られ、硬く上向きに伸びたそこにノクシャスは舌を這わせるのだ。熱く、分厚い舌でぬるりと摩擦され、呑ませる。あまりにも強い快感に逃げようと身動ぎをすれば、ノクシャスはそのまま尖った牙で甘く噛んでくるのだ。 「ぁ……っ、あぁ……っ!」  歯が食い込み、ホールドされた状態で口の中に吸い出された乳首を舌で責められる。食われる、と無意識のうちに仰け反る体をがっちりとホールドしたまま、ノクシャスは腰に回した手でそのまま俺の尻肉に指を食い込ませてきた。 「っ、んっ、ふぅ、ゃ……っ! の、くしゃすさ……っ! ん、ぅ」  寝起きなのに、強制的に快感を叩き起こされる。ずり下げた寝間着代わりのスウェットの下、下着の下まで滑り込んできた太い指は尻の谷間に収まり、そのままぐにぐにと肛門を撫でるのだ。 『したい』――そういうかのように呼吸荒くし、俺を膝に座らせたまま無言で下腹部に腰を押し付けてくるノクシャスに押しつぶされそうになりながら、俺は「ぁの、あの」と繰り返すことしかできなかった。 「……っ、良平」  そして、極めつけはこれだ。  俺よりも年上で、俺よりも大きくて強い男に強請るように名前を呼ばれる。お前がいい、と求められているだけで、必要とされるだけで胸の奥がぎゅっと熱くなった。  ……よくない、これは。よくないぞ。  そう思うのに、思考とは裏腹に既に痺れ、快感のスイッチを無理やり起動させられた下半身は濡れていた。 「……っ、す、こし……だけなら」  いいですよ、という言葉は発することはできなかった。ノクシャスにキスをされたからだ。  ベッドより降りるよりも先に、再び昨夜の続きに持ち込まれることになるなんて俺だって思わなかったが、煽った手前なにもいえなかった。  そして何より、開いたままの肛門が、内壁が、ノクシャスの性器に反応してきゅっと疼いているのがなによりの答えだった。  ――まだ、連絡入ってなかったみたいだから大丈夫だよな。  なんて思いながら、俺はせっかくノクシャスに着せてもらっていた寝間着をノクシャスの手によって再び脱がされることになった。

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