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第9話
「間人君、お風呂行こうか」
そう笑う花戸に血の気が引いた。
部屋へ戻ってくるなり、俺の返事を聞く前に花戸は俺の体に触れてくる。
咄嗟に振払おうとするが、力が入らない。花戸はそれをなんともなしに受け流し、俺の拘束を外してくれるのだ。
逃げようとする暇もなかった。
そのまま花戸に体を抱き抱えられる。
「っ、……離し……」
「こら、暴れたら危ないよ。しっかりと俺に掴まってて」
じゃないと、落ちるよ。
そう本気かどうかも分からないトーンで囁かれ、言葉を失った。――お姫様抱っこだ。
見た目以上に力が強いのだろう、現に決して軽くはない平均的な俺の体をこうして眉一つ動かさずに抱きかかえるのだから。
逃げようと何度も試みたが結局すべて虚しく、脱衣室まで連れてこられる。
そっと降ろされたと思えば、脱衣室の扉を背にしたまま花戸は服を脱ぎ出すのだ。
「なんで、あんたも」
「俺も汚れたからね、色々。……それに、君のその体で一人で入浴は危ないよ。もし転んだりでもしたら」
「……っ」
隠すものすらない全身に、舐めるような花戸の視線が絡み付くのが不愉快だった。
咄嗟に花戸に背中を向けるが視線はずっと感じたままだった。背後では花戸が服を脱ぐ音が聞こえた。
何をしてるのか、何をされてるのか、俺は。
逃げたいのに、隙だってあるはずなのに。
これまで兄に甘えてきたツケが回ってる気がしてならない。結局花戸から逃げることもできず、脱衣した花戸に連れられ半ば強引に浴室へと押しやられた。
湯気が立ち込めた浴室内には甘い匂いが充満していた。花戸の匂いだ。シャンプーなのか分からないが、改めてここが自分の家ではないと知らしめられてるようで身が竦んだ。
そんな俺の肩を抱いた花戸はそのまま「入って」と俺を進ませるのだ。
花戸が手にしたシャワーから暖かなお湯が溢れた。
最初は足、それから太もも、下腹部、胸元へとゆっくりと心臓の近くまで満遍なくシャワーを当てられていく。
「熱くはない?」
「っ、……」
「文句がないってことは、丁度良いってことなのかな?」
怒るわけでもなく、一人続ける花戸になんとも言えない気分になった。
この男が分からない。理解したくもないが、悪意というものを感じないのだ。あんな酷い真似をしておきながら、どうでもいい気遣いをしてくるこの男が不気味で堪らない。
それでも、確かに全身汚れて匂いが不愉快で堪らなかった現状、こうしてシャワーを浴びることができるのはありがたいものだった。
そこまで考えて、思考を振り払う。違う、もとはといえばこの男がしでかしたことだ。絆されるな。
唇を硬く結び、俺は花戸から顔を逸した。
会話が途切れ、シャワーの音だけが響く。
それから全身をお湯で流した花戸はそのままお湯を止める。もしかして終わったのだろうかと顔を上げたときだった。
ディスペンサーからボディソープを適量手に取った花戸は、そのまま液体を絡めた手で俺の上半身に触れてくるのだ。
「っ、……な、に……」
「言っただろ、綺麗にするって。俺のせいで汚してしまったんだし」
「……ッ」
言いながら平らな胸にソープを塗り込むように揉まれ、背筋が震えた。やめろ、と身動ぎをするが、花戸の指が胸の中央、乳首を掠めた瞬間堪らず唇を結んだ。
「っ、ふ……ぅ……ッ」
「ちゃんと綺麗にしないと。せっかく大事な息子さんを預かってるんだからね」
両胸の突起を引き伸ばすように指の腹で柔らかく擦られる。花戸が指を動かす度にソープがぬちゃぬちゃと音を立て、静まり返った浴室内に不愉快な音が響き渡るのだ。
やめろ、と言いたいのに、少しでも口を開けたら変な声が出てしまいそうで怖かった。
けど、小便を飲まされるよりかは遥かにましだ。
さっさと終われ。
そうぐっと堪え、俺は目を瞑った。
「っ、ん、ぅ」
声を出したくなかった。
唇を噛み、声を押し殺す。
突起の上を滑る指に柔らかく潰され、引っかかれ、揉まれる。あまりにも執拗な愛撫に嫌悪感を覚えるが、さっさと飽きてくれればいい。そう思うのが限界だった。
不意に、こちらを覗き込んでくる花戸に唇を柔らかく噛まれる。そのまま啄むように唇を塞がれながらも両胸を女のように揉まれるのだ。
何が楽しいのか理解ができない。
唇を割って入ろうとしてくる花戸の舌を拒めば、花戸はそのまま俺の唇を執拗に舐めた。唇の薄皮を舐られ、そのまま角度を変え、更に深く唇を重ねてくるのだ。
「っ、ぅ……っく……」
反応したくないのに、腰に当たる性器の感触に汗がじっとりと滲む。花戸の脈まで伝わってきそうだった。
――なんで勃起してるんだ、この男は。
先程あれだけ処理したにも関わらず、次第に大胆になってくる愛撫に堪えられず堪らず背中を丸めてしまう。不可抗力だった。下腹部、ずっと異物を挿入されていた肛門が酷く疼いた。
そんな俺に気付いたのか、俺から唇を離した花戸はそのまま俺の耳朶を優しく噛む。
「っ、は……っ」
「ね、間人君。俺のも洗ってよ」
胸から手を離した花戸に手首を掴まれる。
そのまま掌を重ねるように握られ、あろうことかこの男は俺の手を自分の性器へと持っていったのだ。
「っ、ぃ、やだ……」
指先に触れる既に固くなった性器の感触に思わず逃げようとするが、力が入らない。
「お願い、間人君」と優しい声で囁きながらも無理矢理性器を握らせてくる花戸に吐き気がした。やめろ、と手を外そうとするが指を絡め取られてしまい、俺の手ごと花戸は自分の勃起した性器を扱き始めるのだ。
「ゃ……ッ、ぅ、ひ……ッ」
掌の下、ドクドクと脈打つ性器は恐ろしく熱く、触れれば触れるほど性器の先端から溢れ出す先走りが絡み、耳障りな音が浴室内に響くのだ。
気持ち悪い、気持ち悪い、嫌だ。そう思うのに、花戸は興奮してるのか更に手を早める。
「っ、間人君……ああ、そうそう。上手だよ、とっても。……君、才能あるよ」
「……ッ」
終われ、さっさと出せ。
熱いのに寒い。口でしゃぶるよりましだ。そう自分を鼓舞することが精一杯だった。
一人で勝手に舞い上がっては性器をガチガチに勃起させる花戸を意識したくなかった。
奥歯を噛み締め、ぎゅっと目を瞑ってやり過ごそうとしたときだった。
不意に、花戸の手が止まった。
「……っあぁ、ちょっと待って。どうせなら……」
まだ花戸はイッていないはずだ。
そう、恐る恐る目を開いたときだった。腰を掴まれる。
「どうせイクなら、こっちがいいな」
嘘だろ、と思った矢先だった。乱暴に掴まれた臀部、その閉じかけていた肛門に押し当てられる性器の感触に全身から血の気が引いた。
「待……っ」
待ってくれ。なんて頼むこともできなかった。
俺が言葉を続けるよりも先に、花戸は躊躇なく性器を挿入してくる。
「っ、ひィ……――ッ」
「っ、うわ、はは、中、柔らかくなってるね」
「まッ、ぅ゛……ッ、ぅ、ふ……ッ!」
腰を抱きかかえるように固定し、そのまま一気に腰を打ち付けられればそれだけで視界が赤く染まる。堪らず目の前のタイルの壁にしがみつくが、悪手だった。支えを見つけた俺を見て、薄く唇を緩めた花戸はそのまま腰をゆるく動かし出すのだ。
「っ、流石に熱いな……っ、きもちいいよ、間人君の中……ッ」
「っ、ぅ゛ッ、ご、くな……ッぁ゛……ッ!」
空腹と吐き気が収まらない体内に焼けるような熱が広がる。粘膜中が炎症を起こしてるようだった。
太く血管が浮かび上がるそれでナカをくまなく摩擦されればそれだけで意識が飛びそうになる。そんな俺の顎を捉え、花戸は再び唇を重ねてくるのだ。
「ふ、ぅ……っ」
「っ、は、間人君……っ」
挿入のペースは緩めるどころか激しさを増す。
肉の潰れるような音ともに下半身を揺さぶられ、最奥の突き当りを執拗に突き上げられるだけで何も考えることはできなくなるのだ。
ガクガクと震える腿を掌で掴まれ、キスをしながら更に深く抉られる。
熱い、死ぬ。無理だ。薄れゆく酸素、茹だるような湿気の中、ただ受け入れることしかできないまま体内に花戸の精液を注がれる。
「っ、は、ぁ……ッ」
洗うって言ったのは誰だ。
今更そんなことを言い返す気にもなれなかった。腹を満たしていく精液の感覚に下腹部が重くなったときだった。ようやく終わるのか、そう思った矢先萎えるどころか硬く勃起したままの花戸は再び腰を動かし始めるのだ。
「……っ、ま……ッ」
まだやるつもりなのか。
血の気が引き、咄嗟に花戸の腰を離そうとしたが、その伸ばした手首ごと掴まれる。
そしてやつは深く息を吐き、満たされた俺の腹を撫でるように手を這わせるのだ。
臍の付近、花戸のものを咥え込み薄く皮膚が伸び膨れ上がったそこを愛おしそうに撫でる。
「……だって、裸の間人君がいるんだよ。……一回で我慢できるわけないだろ」
悪びれもせずそんな言葉を口にするこの男に血の気が引いた。
空腹と吐き気、摩耗した体力と擦り切れた神経にとって抜かずに二度目の性行為は最早拷問に等しい。
「ッ、待っで! ……っ、ひ、ぅ゛ッ、あ゛っ、うそ……っ、や、ぁ゛……ッ!」
「……っ、ちゃんと、後で綺麗にするから」
響く声が自分のものなのかどうかすらも分からない。指一本すら力が入らず、崩れ落ちそうになる体を背後から抱き竦めるようにして下から突かれる都度意識が飛びそうになる。
「ぬ゛ッ、いて、花戸さ……ッ」
お願いだから、と枯れた喉奥から声を振り絞り、背後の花戸に懇願すれば、あの男は場違いなまでに嬉しそうに微笑むのだ。
まるでずっと欲しかったものを貰った子供のようなあどけなさすらある笑顔に血の気が引いた。
そして、指を絡めるように掌を重ねられ、そのまま腕を手綱のように引っ張られるのだ。拍子に限界まで勃起した性器に奥を突き上げられ、声にならない悲鳴が漏れる。
「……っ、俺の、名前……嬉しい、もう呼んでくれないのかと思った……ッ!」
「ぁ゛っ、あ゛ッ!! ひ、ッ、うそ、とまッぁ゛、う゛っ!」
止まるどころか明らかにピストンの間隔は短くなっていく。腫れ上がった内壁に精液を塗り込むように執拗に摩擦され、最奥、突き当りを押し上げられる度に食いしばった歯の奥からくぐもった嗚咽が漏れるのだ。
なんとか挿入を耐えようとするが、既に体の方が限界に近い。落ちそうになる腰に花戸の腰を打ち付けられる度に腰が痙攣し、内腿はガクガクと震えた。
快感とは程遠い、ほぼ経験のなかったこの体にとって花戸の愛撫はただひたすら独善的で暴力ですらあった。
「っ、ふ、ぅ゛……ッ!!」
朦朧とする意識の中、腹の奥で熱量が膨れ上がる。花戸が射精したのだ。どくどくと脈打つ鼓動。それらを受け止めきれず、溢れ出したものが腿へと流れ落ちる。
「は……ッ、ぅ……」
「……逆上せちゃった? ごめんね、すぐ体綺麗にするからね」
ひとまずは落ち着いたのか、それでも熱っぽく囁かれるだけでも背筋が凍るようだった。
動きを止めた花戸はゆっくりと腰を引いていく。瞬間、ずるりと精液ごと溢れ出す異物感に堪らず「っ、ひ、」と息を飲んだ。
そして栓をしていたものがなくなり、どぷりと溢れ出す精液。見なくても肛門が広がっているのが分かった。ずっと入っていたものが失せた違和感に背筋が震える。
そのとき、花戸の指がぽっかりと開いたそこに触れた。待ってくれ、という俺の声もでなかった。そのまま難なく挿入された二本の指は、中に溜まった精液を掻き出そうと中を蠢くのだ。
「ぁ、い、やだ……も……ッ」
「そんな可愛い声出さないで……これでも我慢してるんだ」
そう息を吐く花戸。先程出したばかりにも関わらず、太もものあたりに再び既に硬くなっていたものがあたり今度こそ青褪めた。そのまま腿の隙間までわざと押し付けられ、動けなくなった。下手したらまた挿入されるのではないかと怖かったからだ。
固まる俺に、花戸はそのままゆっくりと腰を動かした。
「……っ、間人君……」
「ん、む……っ」
体に性器を押し当てながら、まるで恋人かなにかのように深く口づけを交わす花戸にただただ恐怖した。
抵抗する気力すらなかった俺はそれをただ受け入れることしかできず、深くなるキスに嫌悪感が増すばかりだった。
その後、花戸はちゃんと俺の体を洗い流した。本当に気遣ってるとは思えないが、やつは結局挿入こそはしなかったが風呂を上がるまでには全身という全身隈なく愛撫され、ようやく浴室を出たときは一人で歩ける状態ではなかった。
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