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「……最近、二人とも仲いいね」 「え?」 「よく一緒にいるじゃん」  と、いつもの調子で藤也は続ける。  怒っている風でもなく、ただ純粋な疑問を口にする藤也に俺は奈都に目を向けた。  同様奈都も唐突な藤也の問い掛けに戸惑っている様子で。 「そ、そうか?」  何か言わないと怪しまれるんじゃないかと思い、咄嗟に答えてみるが出てきたのは我ながら分かりやすいというか誤魔化しにもなっていない言葉だった。 「そうですね、準一さんとは年が近いということで話も合いますのでよく相手をしていただいてます」  そんな俺をフォローするように言い足す奈都。  確かに、元々そのこともあって奈都とは話すようになったものだ。 「ふぅん」と呟く藤也は相変わらず何を考えてるのか分かりにくいが、少しだけ、さっきまでは無かった眉間のシワが目についた。 「そういや、藤也と奈都も結構一緒に居ること多いよな。どんな話してるんだ?」  それは、あからさまに機嫌を悪くした藤也の気を逸らそうと試みた結果の問い掛けだった。はずだったけど。 「別に、アンタに関係ないじゃん」  なんで怒っているんだ。ムッとしたまま答える藤也に、取り付く島もない俺は固まる。 「……ま、まあ、他愛もない会話ですよ。ねえ、藤也君」 「そりゃ準一さん相手と比べたら他愛もないものだな」 「な……何言ってるんですか、藤也君」  どうやら俺に怒っているのかと思えば、奈都に対しても同じようだ。奈都の笑顔が露骨に引き攣ってるのを見てこっちの肝が冷えてしまう。  しかし、それだけでは済まなかった。 「どうしたんですか、いきなり。らしくありませんよ。……それとも、僕に妬いているんですか?」  最初は奈都なりの場を和ませるためのジョークなのだろうと思った。だから、俺はそのジョークに乗ろうと思ったのだ。 「そうか、お前妬いていたのか。安心しろよ、そういうのじゃないから」  と、笑いながら藤也の肩を叩けば、底冷えするような絶対零度の眼差しがこちらを睨んだ。それはもう機嫌が悪いとかそんなレベルではなく。  しまった、と後悔したところで後の祭りというやつだ。  明らかに藤也への対応をしくじってしまった俺同様、あちゃーという顔をしている奈都。  そして、間髪入れずに肩に回した手を叩き落とされる。 「自惚れないでよ、鬱陶しい」  そう吐き捨て立ち上がる藤也。まさか、今来たばかりなのにと驚く俺を他所に予想通りやつはさっさと応接室を出ていこうとする。 「と……っ」  藤也、と慌てて立ち上がり後を追おうとするが、奈都に手を取られ止められる。  目が合えば、奈都は黙って首を横に振った。放っておいたほうがいいですよ、というように。 「~~……っ」  バタン、と音を立てて閉まる扉。  結局、引き止めることも機嫌を直すことも出来なかった。  虚脱感に堪らずソファーに座り込む。 「大丈夫なのか、あれ……」 「ええ、気にしないで大丈夫ですよ。……藤也君はわりと後腐れがないので」  本当かよ、と思ったが、あんなに怒りのオーラを全身から放出した藤也の後を追い掛けたところで俺にどうすることはできないだろう。というか、なんであんなに怒っているんだ。イマイチ藤也の怒りの沸点が理解できないが、これがジェネレーションギャップというやつなのだろうか。 「それにしても、意外でした。……藤也君がああいう子供みたいな拗ね方をするのは」  藤也が怒ったというのに大して気にするどころかどこか楽しそうに笑う奈都。  確かに、感情的になることがあまりない藤也だ。たかが一言二言であそこまで気を悪くさせてしまうとは思わなかったが、されど、ということか。 「……まあ、中身中学生だからなぁ……」  それから何年経っているにしろ、まだまだ思春期真っ只中というわけだ。  これを言ったらまた怒られそうだが。 「そう、でしたね。……すみません、僕も少し度が過ぎてしまいましたね」 「いや、それなら俺も……」  と、プチ反省会をしている矢先だった。  扉が開き、花鶏が戻ってきた。 「全く、本当逃げ足だけはすばしっこいんですから……お二方、幸喜を見つけたら私に教えてください」  どうやら幸喜を捕まえることは叶わなかったようだ。  げっそりした様子でソファーに付く花鶏に俺達は頷き返す。 「おい花鶏!あのガキどうにかしろ!」  続いて現れたのは南波だった。  どうやら、幸喜にやられたのだろう。頭から泥を被った南波はどこからともなくタオルを取り出し、ごしごしと髪を拭い出す。 「う……っわ、大丈夫ですか、それ」 「え、あ……じゅ、準一さん!すみません!準一がいるとは知らずこんな汚い格好で……!俺、で、出直して来ます!」 「い、いや、いいですから、気にしてないんで」  タオルで顔を覆い隠したまま「すみません」とペコペコ謝ってくる南波になんだかこちらまで申し訳なくなってくる。  さておきだ。  南波の登場に、俺と奈都は目を合わせた。恐らく、奈都も同じことを考えているのだろう。  写真に写り込んだ心霊現象か。 「俺、雨に打たれて清めてきます」なんて言って応接室を飛び出していく南波。結局彼を止めることは敵わなかったが、やはり南波はいつもと変わったところはない。  隠しごとしてるようにも思えないんだが……。  考えている内に「おや」と、窓に目を向けた花鶏が静かにその口を開いた。 「大分雨が弱まってきたみたいですよ」 「この調子なら明日までは止みそうですね」と、窓から外を覗いた花鶏は呟く。  それは俺に言っているわけではないだろうが、なんとなくギクリとしてしまった。  花鶏には……俺達の会話は聞こえていないはずだが、正直どことなく人外染みたこの人を普通の人と同じ物差しで測れないのだ。言動から何まで疑ってしまう。

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