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第1話

 遮光カーテンに閉ざされた室内は、夜の気配を身にまとっている。 「(えい)さん、起きて」  軽やかな足音が近づき、日下(くさか)(えい)の寝室のドアが開けられた。声の主は、同居人でもある大学生の甥、 佐野(さの)(とおる)だ。  徹は無断で室内に入ると、勢いよくカーテンを引いた。眩しい朝の光が顔面を直撃し、日下は不機嫌そうに眉を顰めると、寝穢くベッドの闇に潜ろうとする。 「……」 「え、何? よく聞こえなかった。衛さん、いま何を言った?」  低血圧の日下は、朝が弱い。実家で暮らしていたころも、家を出て一人暮らしをはじめてからも、目覚ましを何個使ってもなかなか起きられないのが日下の悪い癖だった。突然、頭からかぶっていた毛布がめくられる。え、と思う間もなく毛布を手にした徹がベッドの上で丸くなる日下を見下ろしていて、驚いたように声を上げた。 「何で服を着てないの!?」 「……見られて困るような身体はしていない」  昨夜は疲れて帰った後、シャワーも浴びずに寝てしまった。着替えを出すことすら面倒で、着ていた服をぽいぽいっと脱いでベッドに潜り込んだことまでは覚えている。 「そうだけど、一緒に住んでいて最低限のマナーってものがあるでしょう……!」 「そんなもの知るか」  悪びれたようすもなく気怠げに髪を掻き上げた日下を徹は慌てて毛布に包むと、「まったく……」と、呆れたようにため息を吐いた。  そのとき、日下はくんと鼻をうごめかした。 「何だかいい匂いがする」  日下の言葉に、徹は自分が何をしにきたのか思い出したようすだった。 「朝食ができたって呼びにきたんだった」  朝食と聞いて、日下の素直な腹が音を立てた。そのようすに、徹がほほ笑む。 「冷めないうちに早くシャワーを浴びて下りておいで」  徹は寝起きでぼんやりしている日下の頭を撫でると、部屋を出ていった。 「……すっかり子ども扱いだな」

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