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第16話
明かりをトーンダウンしたホテルの室内は、ラグジュアリーな雰囲気に包まれている。たったいままで身体を重ねていた相手の男はベッドから下りると、冷蔵庫から水入りのペットボトルを二本取り出した。
日下は身動きすると、ベッドサイドテーブルに置いておいたタバコに手を伸ばした。シーツがずれて、滑らかな背中がライトに浮かび上がる。日下はタバコを口に含むと、ライターに火を点け、ゆっくりと煙を吐き出した。
「何かあった?」
男は、日下がここ一年ほど身体の関係を重ねている緒方だ。三十代後半、ハンサムで大人の余裕があり、自分の魅力を理解しているタイプ。日下が知っている中でも極上の部類に入る男だ。
緒方とは以前雑誌の取材がきっかけで知り合った。現代のアート作家に焦点を当てたムック本の出版で、普段美術とは縁がない人の興味も引き、話題になった。マスコミ関係に不信感を抱き、本人はいっさいの取材を拒否する日高の代理人として、日下が引き受けた仕事だ。
緒方は名前が売れたいまもSNSでイラストをアップするというスタイルで、フォロワー数は百六十万人を超える。普段日下が仕事で扱う作品とはタイプが異なるが、毒があって尚且つ温かみも感じさせる独特の世界観は、確かに魅力があると日下も認める。互いに割り切った関係で、いまのところ何の問題もない。
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