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第17話

「何かって、何もないですよ」  受け取ったペットボトルに日下が口をつけると、緒方はその顔に魅力的な笑みを浮かべ、ふうん、何もないね、と思わせぶりに呟いた。 「突然会いたいと連絡があったと思えば、いつもより熱心で、どこか不安そうだ。おまけに普段は吸わないタバコを吸っているときている。きみ、タバコを吸うくせに、実はその匂いは嫌いでしょう?」  日下はストレスがたまると無性にタバコが吸いたくなる悪い癖がある。うまく隠せていると思ったのに、緒方にずばり言い当てられて、日下は嫌そうに顔をしかめた。 「嫌ならこなければいい話でしょう。無理強いはしていません」  自分でも大人げないと思うような、拗ねた声が出た。 「誰も嫌だなんて一言も言ってはいない。きみから誘われるのはいつでも大歓迎だ。ただ、普段は何事にも動じないきみの胸を騒がす原因に興味がある」 「胸なんて騒いでいません。ただ、家で少しあっただけで……」  これ以上この話は続けたくないという日下の意思表示には構わず、緒方はますます興味を惹かれたようすだった。 「家でって例の甥ごさん? 確かまだ大学生の。きみにしては珍しく、前に漏らしたことがあったよね」  緒方の前で徹のことを話したのは、完全な日下のミスだった。気分を変えたくて緒方を呼び出したのに、この場で一番耳にしたくない名前を出されて、日下は小さく舌打ちした。 「何事にも動じないきみが、その甥ごさんのことでは途端に冷静さを失う。まるで思春期の子どものようだ。きみはそのことに気づいているのかな? それとも気づいていて、気づかない振りをしているだけかな?」  日下は携帯灰皿にタバコを押しつけると、ベッドからするりと抜け出した。緒方の首に腕をまわすように、キスをする。 「その話、まだ続けますか? それとも別のことをしますか?」

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