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第18話

 耳元で誘うように囁く日下に、緒方は苦笑した。 「……果たして、その誘いを断れる男がどれだけいるだろうね」 「いいからもう黙って」  緒方の唇に手を当て、じっと見つめる。緒方の瞳から先ほどまであった余裕が消えた。  緒方の手からペットボトルが転がり落ちる。零れた水が絨毯に染み込むのも構わず、きつく抱きしめられた。熱い口づけを交わしながら、ベッドへ倒れ込む。  セックスは好きだ。自分が自分のままでいられる気がする。そこには偽りの言葉で互いを気遣うふりをする煩わしさもない、ただの純粋な欲望がある。  緒方のキスは、日下を全身で甘やかすかのようだ。セックスの相性も悪くはない。それなのに、いまごろ徹は何をしているのだろうか、不自然な態度を取った自分を不審には思っていないだろうかなどと、余計なことを考えてしまう。 「……きみは残酷だ」  耳元で囁かれた言葉を、日下は聞こえない振りをする。自分にとって、それは聞こえたら都合の悪い言葉だからだ。 「いつかその甥ごさんに会ってみたいね」  別れ際、緒方に言われた言葉に、日下は眉を顰めた。

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