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第27話
「何があったのかは知りませんが、きょうのあなたは変だ。徹、その質問には答えないでいい」
日下は通りかかったウェイターに会計を頼んだ。いったい緒方がどういうつもりなのかはわからないが、こんな茶番はもうたくさんだった。
「食事の途中で申し訳ありませんが、これで失礼します。徹、帰るぞ」
なかなか戻らないウェイターに苛立ちを募らせながら、日下は膝の上のナプキンをテーブルに置いた。緒方は何も言わなかった。ただ何を考えているのかわからない瞳をしていた。その表情になぜか諦めのような色を見つけて、日下の胸がちくりと痛んだ。
なぜだ、なぜ僕が罪悪感のようなものを抱かなければいけない。悪いのは緒方のほうだろう。
「衛さん」
日下の手に、徹がそっと触れた。その温もりに、苛立っていた日下の気持ちがわずかに削がれる。
「あなたがどういうつもりでそんなことを訊ねるのかはわかりません。正直答える義理もありませんが、さっきの質問の答えならイエスです。俺は衛さんのことが好きだ」
「徹!」
思わず声を上げた日下を、徹が静かな目で見つめ返した。
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