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第28話

「俺は衛さんのことが好きだ。衛さんだって、それはわかっているはずだ」  心の奥まで見透かされそうなまっすぐな瞳に、目をそらしたのは日下のほうだった。 「緒方さん」 「何だい」  徹の呼びかけに、緒方はいつもと変わらないようすで穏やかに応じた。 「俺はあなたのことを知りません。だけど、衛さんの言葉の通りなら、きょうのあなたは普段とは違うのでしょう」 「徹?」  いったい徹がどういうつもりなのかわからず、日下は眉を顰めた。 「……そうだとしたら、何か意味はあるのかい?」  緒方の顔に、きょう初めて徹を認識したような色が浮かんだ。 「確かに叔父は品行方正な人物ではありません。完璧なように見えて、実際はそんなことはないし、いいかげんで問題が多い人だ。この人、家では朝ひとりで起きることもできないし、気がついたら部屋が洗濯物に埋もれていても平気なんですよ」 「徹!」  この場にきてのまさかの徹の暴露に、日下は羞恥を感じながらも苛立ちを募らせる。 「お前、いい加減にしろ。緒方先生もこいつの話を本気にしないでください」  焦る日下とは反対に、緒方は徹の話に興味を引かれたような表情を浮かべている。 「だけど、あなたがおっしゃっていたように、衛さんは信用できる人だ。本当はわかっているんじゃないですか? そしてそれは衛さんにとっても同じだと思います。その信頼を、どうか裏切らないであげてほしい」 「徹……」   まっすぐに緒方の目を見て話す徹に、日下は言葉を失う。つかまれた手が熱かった。さっきまでの激情が消え、頭が冷静になるにつれ、じわりと頬に熱が戻ってくる。

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