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第71話

 徹の引っ越しの日は、空がきりりと澄み渡る秋晴れの日だった。  徹とそういうことになった後、ふたりでよく話し合ってそう決めた。この先もつき合っていくのなら、これまでのような曖昧な関係はよくない、けじめが必要だという日下の言葉に、徹も同意したからだ。新居が見つかるまでの一ヶ月ほど、日下と徹はこれまで通りの日常を過ごし、夜は愛を交わした。  荷物がなくなり、がらんとした徹の部屋の中で、日下は佇んでいた。開いた窓からフローリングの床に、白い光が差し込んでいる。甘く清冽な匂いがした。庭に植えてある金木犀の香りだろう。 「衛さん、ここにいた」  部屋の入口に手をかけるようにして、徹が顔をのぞかせた。 「もう時間か」 「うん。そろそろ出るって」  引っ越しは専門の業者に頼んだ。これから徹は大学近くのアパートで一人暮らしをする。新居に着いたら大学の友人が引っ越し作業を手伝ってくれるらしい。日下がすることは何もない。 「衛さん」

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