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第65話

「ふつつかものだが末永く頼む」  つられて三つ指返しといくと、膝の上に横抱きにさらい取られた。羽月は反射的に涼太郎の首に腕を回した。直後、狂おしいものをたたえた顔がアップで迫り、前髪が吐息にそよぐ。  キスが舞い落ち、ごちゃごちゃ考えるのなんか後回しだ。といっても唇はあっという間に離れてしまい、ブーイングものだ。口の()を舌でつついて催促すると、ためらいがちに舞い戻ってくる。  羽月はフリースに包まれた背中を撫でまわした。筋肉のつきぐあいといい、適度な弾力性といい、抜群のさわり心地だ。だが、キスのほうは唇を押しつけてくるばかりで艶消しもいいところ。  とはいえ、エッチのイロハを教え込むのはビッチ(元)にはお手のもの。腕が鳴る反面、焦れったさがつのる。  唇の輪郭を舌でなぞり、その舌で結び目を割りほぐしがてら口腔をひと混ぜする。とたんに唇のあわいで呻き声が洩れると俄然、性の伝道師魂に火が点いく。  まごつく体の舌をたぐり寄せ、からめて返すよう促すと、ぎこちないなりに丁寧にそうする。次いで甘咬みしてみると、忠実に倣う。呑み込みの早さがつたなさを補い、何より初々しい点が味わい深い。  さぁて、真っ白なキャンバスにどんな絵を描こうか。小悪魔の尻尾がするすると伸びて、すっかり羽月のペースだ。  デニムの中心に振動を与えるふうに、わざと尻を前後にずらす。あわてて腰を引く涼太郎にぎゅっとしがみつき、耳たぶを食みながら、とびきり甘い声で囁く。 「白石くんの、見せて……」 「見せてとは、何を?」  真顔で問い返されて、ファスナーのベロをつまむ。産毛をこそげるように唇を震わせながら、微笑(わら)いかける。 「ちょっぴり塩味のミルクが、たっぷり詰まった棒キャンディをここに隠してるよね? 見たいなあ」  たちまち、ずずんと隆起したものが尻の割れ目を突きあげる。羽月は、いそいそと膝から下りるやいなや上体を前に倒した。  苦節二ヶ月、ついに対面が実現すると思うと感慨深い。さあ、銜えてぱくついて吸ってねぶって、魅惑の膨らみを()で尽くしてあげようじゃないか……!  ところが、いわゆるマグロになっておけば快感の海にたゆたえるにもかかわらず、涼太郎は妙なこだわりを見せる。 「童貞の分際でおこがましいが、男子たるもの主導権を握りたい。よって手出しは無用」  引き起こされて、羽月はむうっと口をとがらせた。男の沽券などという屁の役にも立たないものなんか丸めて捨てちゃえ、と言いたい。  待ちに待った瞬間を迎えて舌がひりつくようなのだ。ケチケチしないでムスコを委ねて、よがり啼きに悶え狂ってほしい。

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