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第70話

 羽月は強靭な背中で足を交叉させると、腰を揺らめかせた。内奥が甘やかにうねりはじめて、涼太郎にしなだれかかるさまが思い浮かび、うれし涙がにじんだ。  好きな男性(ひと)とのセックスは、光のシャワーを浴びているようにきらきらしい。 「すご……い、気持ちがいい。貞操を破るのはまかりならぬ、と家訓で禁じるのも道理。羽月さんの中は素晴らしいのひと言に尽き、脳が蕩けて学業がおろそかになりかねない」  凛々しい顔が情欲にゆがむ。涼太郎が前にのめり、荒々しく唇にかじりついてきた拍子に先端が核心をかすめた。 「あ、ん……そこ、ポチっとなってるとこ、突いてぇ……っ!」  突いてぇ、突いてぇ、突いてぇ……虚しくこだました。  両足をいちだんと腰に巻きつけて、交わりを深めるように煽っても駄目。昂ぶりは、サイクロン掃除機を遙かに上回る強烈な吸引力をものともしないで隘路の中ほどにとどまりつづける。あまつさえ双丘を鷲摑みに不完全合体の状態で固定されてしまい、押しても引いてもびくともしない。  羽月は意識して内壁を波打たせ、ペニスをあやしながら、せがんだ。 「あの……まだ奥行きがあるよ? っていうか奥のほうはもっと気持ちがいいよ。だから、ずっぽりとおいでよ」  涼太郎は、きっぱりと首を横に振った。 「生殺しの刑に処すと宣言したからには男に二言(にごん)はない。よって(おとな)う栄誉に浴するのは愚息の半分までとする」 「そんなのひどい、せっ……!」 〝殺生な〟は、もごもごとキスにくぐもる。(いただき)は、突起に触れるか触れないかの位置を行きつ戻りつするばかりで、あざといどころの騒ぎではない。それでいて蜜がとろとろと茎をつたい落ち、和毛(にこげ)をぬらつかせるさまが、いじらしくも哀れだ。 「ぁあ、んん……寸止めこきまくってタチ悪すぎ! どういうイジメだよ!」 「イジメとは心外だ。首尾一貫してぶれがないと言ってもらいたい」  かくなるうえは、と羽月はガムシャラに律動を刻んだ。内壁がむずかるように収縮し、懸命に引き留めても、怒張はあっさりと遠のく。蠕動に逆らいながら戻ってきたところに、うねうねとまとわりつくたびにタイムがかかる──以下同文。  際限なく繰り返されるそれは、これぞまさしく生殺し。  それでもビッチ時代にえり好みをせずに、雑多なペニスを平等に食しておいた経験が生きた。(さね)の手前で折り返したペニスは短小だが、太さは申し分ない。そう自己暗示をかけると快感の波にさらわれる。不完全燃焼には違いないものの、 「イ、ク……ふっ、ん、あああ……!」  爆ぜるのにともなって中がきゅうと締まる。そう、自分は性豪とうそぶく男ですら暴発を免れないほどに。  だが涼太郎は三こすり半といくどころか、やすやすと持ちこたえる。そればかりか絶倫の片鱗を覗かせて、力強くえぐり込む。ただし、そこが己の終点と定めた箇所まで。  羽月は、というよりおあずけを食らいっぱなしの最奥が泣きじゃくるようだ。無駄に鋼鉄の意志が恨めしい。  千人斬りの呪いが解けたのもつかの間、生煮えのエッチに甘んじざるをえない羽目に陥る。神さま、これはビッチという垢を洗い流すには避けては通れない道なのでしょうか?  粉雪がはらはらと舞い、クリスマスシーズンの幕開けにぴったりだ。かたやロフトでは、相変わらず攻防戦が繰り広げられていた。  焦らされ感満載によがりながら、羽月は心に固く誓う。次回こそ何がなんでも、涼太郎を大の字に縛りつけてでも、童貞を完全にいただく! ……たぶん。

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