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チンポの9

     チンポの9  初詣とは、即ち忍耐力を試されるものである。羽月は、ため息交じりに周囲を見回した。参拝客の行列はどこまでも延びて、最後尾に至っては地の(はて)に達するようだ。  新春を寿(ことほ)ぐ雅楽がスピーカーから流れているが、喧騒にかき消されがちだ。おびただしい人数の参拝客が、遥か彼方の本殿──正しくは賽銭箱をめざしてじりじりと進むさまは民族大移動のごとくにぎわしい。  スリだ、痴漢だ、迷子だ、と騒ぎが起こって混雑ぶりに拍車がかかる。元旦の午前一時三十分現在、全国でもっとも人口密度が高い場所は、ここ〇治神宮に違いない。  羽月は、黒山の人だかりにうんざり顔を向けた。もっとも同じく立錐の余地もない渋谷でカウントダウンで盛りあがった足でここに詣でにきたのだから、人のことはとやかく言えない。行列に並ぶのが好きなのは国民性で、揉みくちゃにされる状況ならではの楽しみがある。  折しも涼太郎が肩に腕を回してきた。 「大丈夫か、つぶされていないか」 「平気。けど、詰めろって警備係が怒鳴ってるし、もっとくっついていい?」 「もちろんだ。そうだ、手をここに」  ダウンジャケットのポケットに手がいざなわれ、恋人つなぎに指をからめるのはラブラブの王道だ。  一事が万事、この調子で、チョコレートの塊にグラニュー糖をまぶしたように甘々な、ハネムーン気分にひたる毎日を送っていた。クリスマスイブには、ハート形に焼きあげたハンバーグとケーキによる「あ~ん」をやりっこした回数は百を超えた。  ちなみに同夜の挿入率は四十七パーセントにとどまり、またもや無念の涙を流したのは記憶に新しい。  完全合体を目論む穴と、半童貞を死守したがるペニスが熾烈な駆け引きを演じる寝室事情はさておいて。今のふたりにかかれば、永久凍土さえ融けるようだ。 「おんぶ、あるいは肩車、いっそのこと姫抱っこで羽月さんを本殿につれていくか」 「おれ、重いよ。白石くんがバテちゃう」 「重いどころか軽い。駅弁スタイルというやつに挑戦して証明するにやぶさかではない」  などと、石を投げつけられないのが不思議なほど大っぴらにイチャつき、熱っぽく見つめ合う。ところが物好きなことに、おじゃま虫に志願した者がいる。  くだんの勇者(?)が、()ぎ合せたようなふたつの肩を押し分けて、ぬうっと顔を突き出した。

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