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第72話

「べたべたべたべたしやがって。おまえらは、ちったぁ自粛する気はないのか、自粛する気は」 「そういえば誘ってもいないのに須田も一緒に来たんだっけ。馬に蹴られにきたの?」 「俺が平等に愛をそそぐ七人の彼女たちが団結して、チ〇ポを切り刻むとナイフを研いでいる。俺はある意味、おまえらのキューピッドだろうが、感謝を込めて護衛しやがれ」 「トカゲの尻尾のように、切り取られても再生するかもしれないぞ。ものは試しで身を以て確かめてみてはどうだ。タラシにはいい薬だ」    涼太郎は華奢な肩をいちだんと抱き寄せると、ハエを追い払うような仕種をみせた。須田が中指を突き立てて返し、ふたりの間に躰をこじ入れた。 「なあ、四ノ宮。歩き方が微妙に変じゃね?」  よくぞ聞いてくれました、というふうに羽月は瞳を輝かせた。一転して顔を曇らせると、それでいて得々としゃべった。 「白石くんってロボット工学を専攻してるだけあって手先が器用なんだ。で、技術を磨くとかって貞操帯をこしらえて、おれにつけさせるの。ひどくない?」  ビッチを廃業するにあたってフェロモンを封印しても、ともすると洩れ出す。劣情をそそられた男に努々(ゆめゆめ)襲われぬよう、外出時には貞操帯の着用を義務づけられているのだ。蛇足だが、涼太郎が羽月のよがりっぷりに着想を得て画期的な性具を開発し、イグノーベル賞を受賞するのは、また別のお話。  閑話休題。羽月は束縛されるのが満更いやでもない。涼太郎が変人キャラなことは織り込みずみだし、こちらは尻軽呼ばわりされるのが逆に勲章だったという前科がある身。  多少、いびつな形であっても愛は愛なのだ。独占欲の強さにときめくあたり、恋は盲目とは言い得て妙だ。  今しも涼太郎が、将棋倒しが発生しないように加減しながら須田を押しやった。 「過度の接触は慎んでもらいたい」 「ヤキモチ? ねえ、ねえ、ねえ」  羽月が仏頂面を人差し指でつんつんすると、涼太郎はますます口をひん曲げる。それでいて尻尾をパタパタと振るさまが見えるようで、須田に勝ち誇ったような一瞥をくれながらマフラーをほどき、羽月と半分こに巻きなおす。 「腐れバカップルが。死ね、いっぺん死ね、死んで世間さまに詫びろ!」  須田は玉砂利を踏みしだき、ガシガシと眼鏡のレンズを磨く。

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