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第73話

 提灯の明かりが揺らめくもと、ようやく本殿にたどり着いた。お参りをすませたあとは、おみくじを引いて運試しと決まっている。  縁起物の売り場もごった返していたが、つき合って間もないころは、あらゆることが幸せに結びつく。筒を振って出てきた筮竹(ぜいちく)に記された数字を見せ合いっこするさいも、 「おれの二十一番。白石くんの誕生日と同じ数字だね、運命を感じない?」  きゃっきゃっ、うふふ、とウザったいことこのうえない。須田が悟りの境地に達したように、生温かい目でふたりを見守るのも、むべなるかな。  さて、涼太郎が真っ先におみくじを広げてみると、 「中吉と、まずまずの運勢だ。学問は勉学に励めとあるから、院試に向けて精進あるのみだな。羽月さんはどうだった」 「大吉ぃ、就職は第一志望で決まりかも。願望が、実行するときって言うのが……」    完全合体を成し遂げよ、と激励してくれているのだと解釈して邁進しちゃおう。いちおう須田の手元を覗き込むと、彼は力なく笑う。 「俺は大凶だ。チ〇ポの命は風前の(ともしび)かもな……」    女難の相あり、という一文に限って黒々と立体的に見える。そんな含蓄に富んだおみくじが、突風に煽られて眼鏡に張りついた。  明けの明星がまたたくころになっても参拝客の列は途切れず、押しくらまんじゅうをしているような光景がそこかしこで見受けられた。参道は一方通行で、自然と駅に向かう形になる。羽月は鳩尾をさすった。 「腹へらない? 電車に乗る前に、お茶していこうよ」 「賛成だが、蒸れてかぶれるのを防止する意味でも、いったん貞操帯を外すべきだ」  涼太郎が澄まし顔で応じる。姫はじめで二年参りを締めくくると、ほのめかしているのだ。羽月は、ぽっと顔を赤らめた。フェロモンがだだ洩れして、半径数十メートルの圏内にいた男どもが一斉に前かがみになったさまは壮観だ。  須田がスマートフォンを印籠のように掲げた。 「ラブホは軒並み満室に決まってるだろうが。でもな、友だちだもんな。俺を匿いがてら一緒につれてくって条件で、発情しちまったおまえらのために、人脈を駆使して空き室を確保してやってもいいぞ」 「気持ちだけもらっておこう。ちょうどお迎えが来たことでもあるしな」  涼太郎が腕をひと振りした。見つけた、挟み撃ちよ、と言い交わしつつ、ゆるふわ族の七人の女子が、人込みをかき分けてずんずんと近づいてくる。  羽月は、真っ青になって逃げだす須田を通せんぼうしておいて、天使の笑みを浮かべた。 「ごめん、ここにいるってリークしちゃった。けど年貢の納め時っていうじゃない。純愛主義に宗旨替えしたおれを参考に、ケジメをつけてきなよ」 「チクショー、裏切り者! ……うわっ、ハニー改め魔女どもめ、こっちに来るな、チ〇ポにお慈悲をぉ……っ!」  絶叫が尾を引いて遠のいていき、須田がつれ去られたあとは、ハートが飛び交うふたりの世界だ。

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