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第74話

 何事にも全力投球を(むね)とする涼太郎は愛情表現に関してもそうで、唐突に羽月の足下にひざまずくと、隠し持っていた小箱を差し出した。 「クリスマスに間に合わせたかったのだが、なにぶんアクセサリーを作るのは初めてで、年明けにずれ込んでしまった」  との前置きがあったものを小箱から取り出した瞬間、羽月の躰は誇張抜きに宙に浮いた。手作りの指環をプレゼントしてくれるとは、なんという素敵なだまし討ちだろう。うれしいという次元を通り越して、成層圏の彼方まで舞いあがっていくようだ。  以心伝心で左手の薬指にはめるとサイズはぴったりで、早速そのへんの物陰でアオカンといきたいほど胸が高鳴る。メタリックなごついデザインは正直、好みとかけ離れているが、ノープロブレム。世界中の人々に見せびらかして歩きたい。 「ありがとう、一生大事にするね」  うっとりと指環に見惚れているところに、鹿爪らしげに囁かれた。 「指輪とおそろいのペニスリングも作った。羽月さんは暴発するきらいがあるからな」  ドヤ顔が癇に障って、小悪魔の(つの)がぴかりと光った。初心者マークがついている半童貞の分際でいっぱしの口を利くとは片腹痛い。元ビッチとは年季が違うのだよ、年季が。  そう、高スペックなペニスの性能をフルに発揮できるように、涼太郎に再教育をほどこして、性生活の充実を図るのだ。  こじゃれたカフェに場所を移し、バリスタに無理を言って、カプチーノの表面に涼太郎の似顔絵を描いてもらった。羽月はそれを舐めまわすふうに飲みながら、忍び笑いを洩らした。  一年の計は元旦にあり。かつて足しげく通ったラブホテルにはSM専用ルームがある。  はりつけ台を模したベッドに涼太郎をくくりつけたうえでムスコを念入りに可愛がり、発射するまで秒読み段階に入るたびにはぐらかして、寸止めの切なさをたっぷり味わわせてあげるのだ。あの部屋を押さえちゃお。予約フォームから、ポチ。  悪戯心は、恋模様に(きょう)を添えるスパイス。一風変わったやり方で愛を育んでいくのも、急転直下の展開で誕生したカップルらしくていい。    余談だが須田のその後は、といえば。三が日の間中、ゆるふわ軍団が寄ってたかって彼をくすぐる、という刑に処せられて、危うく笑い死にする寸前までこちょこちょされまくったとか。  冬休みが終わって最初の登校日。図書館で落ち合った須田は、いまだに横隔膜が筋肉痛だと言って、腹にべたべたと湿布を貼っていた。  臭い、寄るな、と鼻をつまんだ羽月自身、トホホな出来事があった。元日は女王さま気分で愛慾の限りを尽くすつもりが、あえなく返り討ちに遭った。  のみならず、シモの毛を剃りあげられてしまったのだ。まあ、つるつるなぶんエロさが際立ち、涼太郎の中の獣率が高まる傾向にあるのがオイシイが。  ともあれ寒波が襲来しても、ラブラブパワーで乗り切っちゃうのだ。お伽噺の結末がそうであるように、ハッピーエンドを祝して、めでたしめでたし。

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