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第5話 戸惑※

 少年をただ舐め回すこと数時間。茜色だった空はすっかり漆黒に染っていた。  満足した主人は笑顔を浮かべたまま首輪に繋いだ鎖を取り外す。 「今日も気持ち良さそうだったね」 「はい、ご主人様」 「それじゃあ、私は戻るよ。それから、いつも言ってるけど首輪は外さないようにね。君の番になるのは、私なのだから」  主人は少年の頭を撫で、乱れた服を整えて部屋を出ていった。  初めて会った時から、主人は少年に言っていた。君こそ私の運命の番だと。  番とは、アルファとオメガの間で交わされる契約のようなもの。番になればオメガは発情期《ヒート》を引き起こさなくなり、番になったアルファとしか性交しなくなる。  その契約はアルファとの性行為時にオメガのうなじを噛むことで成立するが、主人はルーカスと交わろうとはしない。あくまで愛撫のみ。  何がしたいのか目的なのかルーカスには一ミリも分からないが、他のアルファが噛みつかないようにと着けられた首輪は外さないよう気を付けている。 「……体、洗おう」  ルーカスは裸のまま、外にある小さな水場で体を清めた。  冷たい湧き水を桶に組み、全身に浴びる。  身体中が主人の唾液まみれでベタベタする。早く綺麗にして、絵を描きたい。そんなことを思いながら、水浴びをする。 「……ヴァイスさん、何してるのかな」  ふと、森の方に目を向けた。  そういえば彼はアルファだったと、出会って瞬間の体の高揚感を思い出す。  発情期《ヒート》でもないのに体が熱くなってのは初めてだった。その時のことを思い出しただけで、また少し体の奥が熱くなるのを感じる。 「……え?」  おかしい。ルーカスはゆるりと勃ち上がる自身の屹立に、戸惑いを隠せなかった。  今まで何人ものアルファと会った。有り得ないほどその男たちに抱かれた。  その時ですら、こんな風に興奮したことなんてないのに。  少年は自身の屹立を軽く掴み、ぎこちない動きで上下にシゴいた。  自慰なんて今まで一度もしたことないのに。さっきも散々主人に無理やり射精させられたはずなのに。  ヴァイスと会った時のことを思い出すと手が止まらなくなる。 「っ、あ……あ、んっ!」  ビクッと脈打ち、射精した。  小さな手に吐き出された白濁に、ルーカスはただただ驚く。  心臓が痛いほど高鳴っている。  自分が悪いことをしてしまったような、そんな罪悪感で胸が痛む。 「……なに、これ」  感じたことのない感情に、思考がついてこない。  とりあえず部屋に戻ろうと、急いで手を洗って水浴びを終わらせた。 ーーー ーー  部屋に戻り、着替えを済ませたルーカスは隠したカゴを取り出して採取した素材を染料にしようと木の枝で潰していく。  絵を描くための道具は全て、森の中で拾った物や古くなった服を利用している。  昔、ルーカスは一度だけ主人に絵が描きたいと言って酷く怒られたことがあった。  お前は何もしなくていい。余計なことを考えるなと。  その時はいつも穏やかな主人がとても荒ぶっていた。  それからは何も言わなくなった。この人に何かを求めてはいけないと知り、何も知らない何も求めない子を演じるようにした。 「……木炭、また見つけないと」  素材の中に木炭がないことに気付いた。  また森の中を探さないと。そう思いながら、ヴァイスのことが脳裏を過る。  ルーカスにとって男の人は主人か、主人が連れてくる男達しか知らない。  みな、ルーカスを見て目をギラつかせている。  欲に塗れた眼で少年を見ている。  男は皆、そんな目をしているのだと思っていた。  だが、ヴァイスは違った。ルーカスのフェロモンにも耐え、心配してくれた。  あんな優しい瞳を、ルーカスは初めて見た。 「……綺麗だったなぁ」  見たことのない美しい金色の目。  まるでお月様のような輝きが忘れられない。  また逢えるだろうか。  ルーカスは獣の血を引く青年のことを思いながら、筆を取った。

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