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第9話 失敗※

 部屋に戻り、いつものように汚れた足を洗って外に出た痕跡を残さないようにする。  いつ主人が来ても大丈夫なように、椅子に座って心を落ち着ける。  しかし、今日は少しそれも難しいようだった。  明日のことを思うと、自然と表情が緩んでしまう。  これでは主人に疑われてしまう。もしそうなってヴァイスに何か迷惑をかけてしまったらと思うと、怖くなる。  だから気を付けなくてはいけない。この何も変わらない日々に訪れた変化を大切にしたい。 「まるで革命だ」  そんな言葉を使うには少し大げさかもしれないが、ルーカスは素直にそう思った。  楽しい。そう思えるのはとても久しぶりで、生きてることを実感できる。  生かされるだけの日々とは違う。  隠れて絵を描くことで、どうにか生きているという感覚を繋ぎとめているに過ぎなかった。でも、やっとルーカスは取り戻したような気分だった。  そんな思いを守るために、この部屋ではそれを押し殺さないといけない。  ルーカスは人の気配に気づき、深呼吸した。  今の自分は人形。  心はいらない。  今だけ、この体から出ていって。  ルーカスは自分の心にそう言い聞かせて、今日も主人の奇妙な行為を受け入れる。 「やぁ、ルーカス。今日も良い子でいたね?」 「はい、ご主人様」 「それじゃあ、いつも通りに」 「はい」  ルーカスは服を脱いだ。  いつも通り、ベッドに横たわって主人の愛撫を受ける。 「ああ、今日も綺麗だよ……」 「……」 「可愛いよ、ルーカス。今日も気持ちよくしてあげようね」 「…………」  無心。余計なことは考えない。  しかし、心に少し雑念が生まれてしまった。  気持ち悪い。それが僅かに顔に出てしまった。一瞬、眉間に寄った皴を主人は見逃さなかった。 「おや、どうかしたのかい?」 「い、いえ」 「本当に?」 「はい、ご主人様」 「そうかい? でも、嘘はいけないよ。君は神様に愛されているのだから、君の嘘は主が許しはしない」 「……神様?」 「そうさ。やっと見つけた、特別な子。君の力は、私だけのものだ」  主人はルーカスの屹立を掴み、乱暴にしごいた。  少し失敗してしまったと心の中で後悔し、ルーカスは痛みに耐える。  緩く勃ち上がった屹立を強めに吸われ、主人の口の中で弄られる。先っぽを舌でグリグリと舐め回され、痛みと快楽を同時に与えられていく。  痛い。強引に絶頂へと達せられ、吐き出した白濁を主人が飲み干す。 「美味しいよ、ルーカス。だけど、まだみたいだね」 「……っ、はぁ、はぁ」 「ああ……早く君と番になりたいよ……」  主人はルーカスの頭を撫でながら、恍惚の表情を浮かべている。  話してる言葉を、何一つ理解できない。  主人はまだ満足していないのか、それから数時間もルーカスの体を愛撫し続けた。  今度こそ、ちゃんと心を殺す。  無心になる。  大切な気持ちを、心の奥底に隠して。

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