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第8話 明日

「ヴァイスさん、年齢は?」 「18だ」 「じゃあ僕より三つ上ですね。好きな物とかあります?」 「……別に」  先程からずっとルーカスから質問責めを受けているヴァイス。  ただ純粋に質問してきているだけに冷たくあしらうのも躊躇われる。  むしろ、こちらの方が少年に関して気になるところは多い。 「ヴァイスさんは、寂しくないですか?」 「寂しい?」 「元々はご両親と暮らしていたんですよね? でも今は一人で……」 「……別に、もう慣れた」 「そうなんですね。確かに、慣れますよね。僕も、あの屋敷での暮らしに慣れてしまったし」 「……お前、あの屋敷でどう暮らしてるんだ」 「どう、って普通にですよ。頂いたごはんを食べて、寝て、ご主人様の言う事を大人しく聞くだけです」  少年は少し言葉を濁した。  さすがに毎日のように慰み者にされているなんて言うのは躊躇われる。  ルーカスは半獣人の彼を美しいと思っている。そんな美しい彼に、自分の汚いところを知られたくないと思ってしまったのだ。 「……そうだ。今度、ヴァイスさんのことを描かせてください!」 「俺を!?」 「はい! 孤児院を出てからは基本的に一人なので人物画を描くことがなくて……それに、ヴァイスさんみたいな綺麗な人を描いてみたいんです!」 「お、俺なんか描いても楽しくないだろ。こんな半端者を……」 「そんなことないです! ヴァイスさんは綺麗です!」  押しの強さにヴァイスは反論の言葉が出てこなかった。  絵のモデルになることなんて当然ない。  それにモデルになるということは、絵が完成するまでは少年に付き合わなきゃいけなくなる。  あまり親しくなるつもりはないのに、なぜ放っておけないのだろう。 「わかった……さっさと終わらせろよ」 「やった! ありがとうございます!」 「……はぁ」  嬉しそうにはしゃぐ少年に、ヴァイスは深いため息を吐いた。  彼に少なからず同情してしまったせいだろうか。こんなことで喜んでくれるなら、少しくらい付き合ってやるのも悪くないだろうと思ってしまった。 「そうだ。ヴァイスさん、どこかに木炭とかないですかね」 「木炭……木を燃やしたものか」 「まぁ、そうですね。実際には普通に燃やすのではなく、きちんと炭化させる必要があるんですが……」 「よく分からないけど、そういえば小屋にジジイが残したものが何かあったな」 「何か?」 「ああ。聞いた話だけど、ずっと昔に獣人が人間から奪ってきた物が小屋に残ってて、金目になりそうな物は殆ど売っちゃったみたいだけど……もしかしたらなんか残ってるかもしれない。今度見に来るか?」 「え、でもそれは盗品なのでは?」 「昔の話だから俺にも分かんないけど、人間からの貢物とかもあるだろうから、盗んだわけじゃないと思うが……」 「そう、ですか。じゃあ、見に行きたいです」  ルーカスは自身の好奇心に勝てず、ヴァイスの提案を受けることにした。  今日はもう遅いので、彼の家に行くのはまた明日ということになった。  明日も会える。キチンと約束が出来た。ルーカスはそれだけで、十分嬉しかった。 「じゃあ、また明日」 「ああ。またな」  また森の出口まで送ってもらい、手を振って別れた。  明日も会える約束。  また明日という言葉が、こんなに嬉しいなんて。 「ふふっ」  ルーカスは明日になるのが楽しみだと、久しぶりに思えた。

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