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第一話
また……ここか。
目をつむっても真っ暗なとこに、ぽつんって浮かんだレトロなテレビは消えない。
それどころかガリッて音がして、勝手にスイッチが入った。
白黒の砂嵐。
それが消えたら画面には――――僕がいる。
古くて、暗くて、湿った部屋。壁紙は剥がれて
ベッドも汚くて、どこも、いやな臭いがした。
ここは煌びやかな表通りから一本外れた狭い裏道のラブホテル。
そこで僕は裸にされて、ベッドに押しつけられてる。
男のゴツくて太くて汚い手が、僕の足を掴んで無理やり広げてる。
「おいっ!今日はなぁ、俺だけじゃぁねぇぞっ!!」
男は、僕の耳元でドス黒い声で笑ったと思ったら
「おめえにゃぁ、もう飽きたつってたろぉ?
だから、今日は俺のやさしーい仲間達に、お前をお裾分けだ!」
ベッドの脇に立ってる男たちも、僕の身体を見下ろして、にたにたって気色悪く笑ってる。
「うへぇ……見ろよ、この傷。こんなん中古の
ぬいぐるみじゃねぇかよ。」
言いながら、にたにた顔の一人が僕の太ももの、まだつけられて間もない切り傷を指で押した。
「う、あ……ぁ……」
痛い。
押されただけで染みて、身体がビクってなった。
「へへへぇ、この店、パパの行きつけだからよぉ、お古な奴は、ちっと無茶しても大丈夫なんだよっ。それにお前も嫌いじゃねえだろぉ?」
「くひっ……まぁな。どら……」
男は僕の股の間に尖らせた手を入れて、乱暴に
奥をまさぐって指を入れてきた。
「んっ……ぎ……!」
痛い。痛い。
ずっと痛い。
でも、声を出したら、もっと酷い事をされる。
「ひひ、気持ちぃだろ?おらぁ、このゴリラと違ってテクニシャンだからよ。おら、どうだ
ここ。」
だから耐える。男が針金みたいな指で僕の奥を
ほじくって、ぐりぐり押してくる痛みに耐える。
耐えていたら、今度は汗くさい身体が僕の上にのしかかってくる。
「ん、ぐぁ……っ!?」
「いってぇ!!ちっ、デブ!俺の指ごと潰す気かよ!!?」
「ぐふぅ、悪ぃ悪ぃ、ぐひぃ、最近溜まってたからよぉ……先にヤラせてくれよ、なぁ、今度
また冷たいのまわしてやるからぁ、な?」
「っ!しゃーねーなぁ、絶対だぞ!」
重さに潰されそうになっている僕の上で、よく
わからない会話をしてる巨体は魚が腐ったみたいな臭いがして吐きそうだった。
「ぐ……うぇ……」
「ぶひ……あんがと、よ!!」
そんな僕に構うことなんてなく、股の間にズブッて、ぬるぬるの気色悪いものが押し込まれて――――
「か……は!?」
痛みが酷くて、頭の中が、ぐちゃぐちゃになった。
「おふ……ぅ、ちょい狭だけど、いいじゃないのぉ、ぶふふぅ」
「ッ……」
「オラッ!どした!?反応ねぇぞ?俺のダチが萎えたらどうすんだオラッ!?」
男のゴツい平手が、重さに、臭いに、痛みに負けそうな僕の顔を乱暴にひっぱたく。
「俺の顔に泥塗る気か!?オラッ!!可愛らしく喘げこのッ!!」
何度も、何度も叩かれて、頬がヒリヒリして口の中が血の味でいっぱいだった。
「まぁまぁ……ぶひ、そんな殴られたら気持ち良くても口ん中血だらけで喘げないだろぉ、なぁ?」
「ぁ……あ……」
「キレイに舐め取ってあげるから、こっち向きなよ、ほらぁ、んーー。」
豚の足みたいな男の手が、僕の顎を掴んで、グイって、引き上げ――――汚い汗と唾がまじった口が、
僕の唇を塞いできた。
「ん、ぅぶ……ぇ……」
歯のすき間に舌が無理やりねじ込まれて、体臭より酷い臭いの唾液が、ぬるっと口の中に押し込まれた。
「うへ……ぐろ……」
「引くわ……うぇ……」
それは友達と呼んでた男達も吐きそうなくらい
気持ち悪いもので、やられた僕は死にそうだった。
「ぶはぁぁ……うるせぇなぁ、こういう優しいキッスが緊張を解いてお互いが気持ち良くなれるんじゃねぇかぁ……なぁ!?」
「ゲェ……」
「あ゛ッ!?」
僕の態度が気に食わなかったのか
「せっがく俺が優しくしてやったのにッ!!ぶふぅ!んだぁぁ、その態度はぁぁッッ!!」
豚の鳴き声に似た叫びを上げた巨体の腰が乱暴に、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も僕の中を突き上げてくる。
もう何も喋れなかった。ひゅう、ひゅうって息が詰まってきて、頭が、白くなって――――
もう、どうでもいいって思った。
僕なんて。
壊れても、死んでも、誰も気にしないんだろうって……そう思った瞬間――――ズシャ。
何かが裂ける生臭い音が聞こえた。
さっきまで奇声を上げてた男の巨体が、ぐらりと崩れて重みが消えた。
周りの男達の叫び声みたいのも聞こえてた気がしたけど、それも消えて、僕は本当に死んだんだって思った……けど
「ねぇ、大丈夫……?」
キレイな声が聞こえて……うっすらと目を開けたら僕の前に、一人の美しい少年が立ってた。
黒い髪。透きとおるような白い肌。
そして――――暗くて、赤い瞳。
「ぅ……あ……ぁ」
美しい、なんて言葉じゃ足りないくらいキレイな顔だった。
小さな手には、血の滴るナイフ。
無表情のまま僕を見つめていた少年は、僕の顔をそっと持ち上げて
「ん……」
唇を重ねてきた。
冷たかった。少年の唇から、とろりとした甘い
ものが僕の口に流れ込んできた。
……?
ごくりと飲み込んだら、胸の奥が、あたたかく、
ぽうっと火が灯るみたいに、熱くなって
あれ……痛みが……僕、生きてる……?
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