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第六十八話
晩ごはんのあと。
リビングのローテーブルはチョコレートで
埋め尽くされていた。色とりどりの包み紙は、
まるで宝石みたい。
「んーっ、美味しいぃぃ〜♪」
凛くんは両手で頬を押さえながら、キラキラの
赤い瞳をさらにキラッキラさせながらチョコを
味わってる。幸せいっぱいの小動物。
「よかった、気に入ってもらえて。」
……うーん……でも、これでよかったのかな……
チョコを囲めば解決、みたいな……ちょっと
チョコの魔法を過信しすぎかも……
「ありがと、葵ちゃん……ボクの分、こんなに……」
「ううん、気にしないで! それと、みんなで
食べるんだからねっ!」
――て、言ったそばから、凛くんはテーブル一面のチョコを一人で平らげそうな勢い。侮れない。
そんな凛くんに僕は近づいて小声で……
「あと……この前のこと、まだどうしたらいいか分からなくて。ごめんね……頼りなくて」
すると凛くんの手がぴたりと止まって、ちょっと苦笑い。
「いいよ。ボクだって、わがままなの分かってるし……むしろ、ごめんね。葵ちゃんを困らせちゃって……」
ちくん……って、胸が痛む。
……凛くん、こんなに良い子なのに、僕ばっかり愛されてるって……ちょっと罪悪感。
……最初は、ちょっと命を狙われてた気もするけど……
そんなこと考えてたら、いつも通りの
猫柄のエプロン姿で、ほんわりした雰囲気の
愁くんがリビングにやってきた。
「2人とも、飲み物足りてますか?」
ああもう、愁くんってば……いつの間にか家事をする姿が妙に板についてて、ドキッとする。
「愁くんもこっちで一緒に食べよ!」
「愁ちゃんの分、無くなっちゃうよ〜♪」
凛くんと僕の間の空いたとこに愁くんが腰を下ろして、3人並んで座る。
それだけで落ち着いてしまうから不思議。
「はーい……ぁ、あと凛、寝る前にハミガキ忘れないで」
「わ、分かってるよ、もう、子供じゃないんだからね!」
「あとで、ちゃんとチェックするからね」
そう言いながら、愁くんは紫色の銀紙を剥いて
チョコをぱくり。
「ん……甘い、けど……」
ん?って思ったら、愁くんの頬がほんのり赤くて。
「なんか……少し……苦い、かも……」
「ぁ、これ……アルコール入ってた?」
ほんと、感じるか感じないかくらいの量が入ってた……だけど、
「愁ちゃんって、ひょっとしてお酒、弱い?」
気づいた時には遅かった。愁くんの目がとろんとしてきて、次の瞬間、ソファからずるりと
ぺたん、と床に座り込んでしまった。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「ふふふ……♪だいじょぶ……れすよ……」
ぜんっぜん大丈夫じゃない。
しかもそのふにゃんとした上目遣いと、ほんのり赤い頬が……めちゃくちゃ可愛くて、目が離せない。
「あおいさん……なんでそんな見てるんですかぁ……」
「えっ!?い、いや別に……!」
「いっつもー、かわいいんですね……
葵さん……だーい好き……♡」
「はうッ!?」
なに言ってんの愁くん!凛くんの前で!!
しかも、隣で黙ってられない子が一人。
「しゅ……愁ちゃん、ボクのことは? どう、
思ってるの……?」
えっ!?凛くん!?今その質問!?
「んー……凛も、だいすき……だよ〜。
ずーっと……ね♡……ふふふ〜♪」
「ほ、ほんと……♡」
ちょ、ちょっと待って。今この状況、僕だけ妙に蚊帳の外っぽいんだけど!?
「り、凛くん。とりあえず愁くん大丈夫そうじゃないから、ちょっと……まずはソファに」
「はっ!ぁ、ぅ、うん……」
僕と、なんか嬉しそうににっこにこな凛くんは、左右で愁くんを挟んで……持ち上げて、
「よいしょ……あ、あれ?」
慌てて起こそうとしたら――
僕の非力さと、愁くんの意外な重さにぐらり。
持ち上げようとした拍子に、3人まとめてソファにどさーん!
「いった……ぁ……く、ない……?」
「っ……愁ちゃん!?」
「ん……葵さ、ん……凛……いたく、ない……?」
なぜか愁くんの腕の中で、私と凛くんが守られている形。え、なに、この胸キュンなシチュ?
「……あおいさん……」
「ひゃ、はい!」
「ん……好き……」
ちょっ、ちょっ、待っ――!?
「ン……」
とろんとした瞳で見つめられて、不意打ちで
キス。ちょっとだけお酒の匂いの混じった、
甘い、危険なキス。
「ふぁ……や、ゃ……ぁ……凛くんの前で……っ」
「だって……はなれたくないんですもん……」
「はぐっ……·!?♡」
ああもう、可愛いのずるい。酔っ払い愁くんも、
破壊力高すぎ。
「むぅ……葵ちゃんばっか……」
あ、凛くんがぷくーっと頬を膨らませてる。
ちょっと拗ねてるの可愛い。
「ふふ……♪凛……やきもちやいてる……
かわいい……ンッ……♡」
「ン……!!?♡♡♡」
「っ!?」
え、え、愁くん!? 凛くんにキスした!?
「な、なにしてんの愁くん、そっち凛くんだよ!?」
「ふぇ……ぁ……りん……?」
「愁ちゃん……好き……ンッ♡」
しかも――今度は凛くんの方からも抱きついて、
もっと深くキスしてる!?
「ちょ、ちょっと、2人とも!?」
止めようと手を伸ばしたのに、2人とも幸せそうで……その顔見た瞬間、胸がずきんとした。
ずるい。
僕も――混ざりたい……
「ふ……ぁ……葵さん……」
なんて思ってたら、凛くんから唇を離した愁くんに、身体をやさしく引き寄せられて。
「ひゃっ……ンンッ!♡」
そのまま濃厚なキス。舌が触れあって、甘くて、チョコよりとろけて――頭が真っ白になりそう……。
「ふ……ぁ……♡ゃ、やめないと……」
「や、です……♪」
「んッ……♡」
ずるい……♡こんなの、止められるわけない。
気づいたら、僕の方から愁くんにキスをねだってた。
「ん♡……ふ、ぁ……とろけ……ちゃ……れゅ……」
……恥ずかしいのと、キュンキュンが混じって……
癖になりそ……♡
横目で見たら、凛くんが切なそうな顔で僕と
愁くんを見てて――
ちょっとだけ、僕がいつも味わってる幸せを……凛くんにも……この幸せを、教えてあげたくなった……
自分でもびっくりするくらい素直な気持ち……。
「ぷ……ぁ……愁くん……凛くんにも……」
「……はーい……♪」
それを伝えたら、愁くんは蕩けた笑みで今度は
凛くんに顔を寄せる。
「……凛……そんな顔しないで……」
「だ、だって……また、葵ちゃんばっか……」
「ほら……こっち向いて……」
「ぁ……ンンッ♡」
2人が重なるキス。目の前で、赤い瞳を細めあって、舌を絡めあう凛くんと愁くん……甘すぎて、恥ずかしすぎて、でも目が離せなくて――
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