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第2話
北海道の田舎の山奥。
慈圀谷(じごくだに)という場所で、俺、道籠繋は生まれた。
今では鬼が住んでた……っていう昔話になっているけど、俺の一族、道籠家はここに妖怪と共生しながら先祖代々暮らし、災害を察知して人々を救う一族として生活してきた。
現在もその役割を隠しながら慈圀谷の土地全てを持つ大地主として一族で協力しあい、キャンプ場やゴルフ場の運営をしたりして暮らしていて、現頭領の父は市議会議員までやっていてこの田舎ではちょっとした有名人だ。
「けい、けーい、起きなよ。ガッコウなんでしょ?」
「ん……っ、ゲッ、マジかよ」
朝。
幼馴染の妖怪、チロに叩き起され、俺はスマホで時間を見て真っ青になる。
チロはチロンノップカムイっていうのが本当の名前で、慈圀谷に何百年も住んでいる赤いキツネの妖怪だ。
炎を操れるチロは小さい頃の俺にとって、花火の火をつけられるスゴい技を持った友達だった。
今でも一番仲の良い妖怪で父から山の管理の手伝いを頼まれていて、俺の部屋の隣に部屋があって一緒に暮らしている。
「繋、急ぎなさいよー」
慌てて支度をして居間に向かうと、育ての親の雪女が俺に声をかけてくる。
俺の母親は身体の弱い人だったらしく、俺を産んですぐに亡くなっていた。
だから俺にとっては雪女が母親だった。
「ははは、繋、珍しいな、寝坊するなんて」
慌てて朝食を食べ始めた俺をよそに、次期頭領の兄ぃこと異母兄の魁人が食べ終えた食器を台所に運ぼうとしていた。
その血を絶やさないよう一夫多妻制も認めている俺の一族。
俺の母親は父と最後に結婚した人だと聞いていた。
兄ぃと俺は年子で、父と雪女との間に生まれた兄ぃは生まれつき髪の毛が真っ白で、肌の色も母親と同じく白い。
その見た目で小さい頃はいじめられていた事もあったけど、今では学校のミスコンで優勝するくらいの美貌の持ち主として、そして生徒会長兼かるた部の部長として校内で知らない人はいなかった。
北海道の中でも有数の進学校である栄蘭(えいらん)高校でテストの成績は常にトップ、心優しい兄ぃは俺にとって自慢の兄だった。
「今日からテストですものね。お勉強、頑張っていらしたのですか?」
その横に並び、笑顔で尋ねてきたのは兄ぃの奥さんで妖怪のコシンプだ。
コシンプは跡継ぎの兄ぃを護る為、普段は森永あやめという名前で人間の姿になって一緒に学校に通っている、チロとは違う種族のキツネの妖怪だ。
元々は悪い男に取り憑いてその命を奪う女の妖怪らしいけど、コシンプはその昔うちの一族に命を救われて以来ずっとうちに仕えていて、一族が途絶えなかったのはコシンプの力も大きい、と父から聞いていた。
父の秘書として、そして家族の一員として小さい頃から家にいたコシンプの事を兄ぃはずっと好きだったらしく、正式に跡継ぎとして指名された時、父にコシンプと結婚したいって言ったのは高校入学が決まってすぐの事だった。
兄ぃの女版で成績優秀(何百年も生きてるから当然といえば当然だけど)、容姿端麗なコシンプは、生徒会副会長兼かるた部副部長、そして兄ぃの彼女としてお似合いのふたりって事で有名だったりする。
「えぇ、まぁ……」
そんなスゴい兄ぃの弟って事で俺も地味に注目されてるのが入学してからの悩みだ。
兄ぃから一緒に学校に通おうって言われてコシンプに勉強を教えてもらってなんとか入学出来たけど、俺は目立たず普通の学生生活を送りたいのに、兄ぃに誘われて生徒会とかるた部に入ってしまった事もあり、そして微妙に兄ぃと顔のパーツが似てる所があるせいで大した事ないのに俺までイケメン認定されて困っている。
でも、兄ぃの手前、辞めるわけにも転校するわけにもいかず、たまに女の子に告白されたりしながら学生生活を送っていた。
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