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第60話

俺と輝政の距離が縮まって数週間。 今回の件で輝政は父にかなり油を絞られ、父から今後は反省し地に足をしっかりつけて妖怪と向き合って生きていくために元々の婚約者ではなく、まず妖怪と結婚して父と母と暮らす事になった。 輝政の相手に選ばれたのはホヤウカムイという翼を持った蛇の神の娘で、結婚式には俺と雅美くんも次期頭領夫婦として参列する事となった。 「今日は頑張ろうね、繋、雅美くん」 「おう」 「うす」 妖怪の姿で俺たちに声を掛けるチロに、俺たちは応えた。 父がこの日の為に用意してくれた一族の模様が入った着物に身を包むと、気持ちが引き締まる。 雅美くんは俺と同じ着物に、結婚式の時に身につけていた淡いピンク色の大きな石のついたネックレスを首にかけていた。 その凛とした横顔がすごく綺麗で、俺はしばらく見蕩れてしまっていた。 俺も雅美くんと式を挙げた、神様を祀っている場所。 父と母、チロと一緒に、俺たちは臨席していた。 向かい合って座った先には、目と口の周りが朱色で全身が薄墨色の身体をしたホヤウカムイと、同じく目と口の周りが朱色で薄墨色の長い髪の少しふっくらとした色白の女性が白い着物に身を包み、首から朱色の大きな石のついたネックレスを首にかけて座っていた。 「この度は我が息子、輝政と御息女様が縁を結んで頂き、まことにありがとうございます。ふつつかな息子ですがどうぞよろしくお願い致します」 父がホヤウカムイに深々と頭を下げ、俺たちもそれに倣う。 「いやいや、この地で我らと共に歩んできた道籠家とのご縁を断る理由などありますまい。我が娘も年若く至らぬところが多々あるとは思いますが末永くよろしくお願い致します」 固い表情の輝政に対して、ホヤウカムイの娘は終始ニコニコと明るい笑顔を見せていた。 「ホヤウカムイ様、こちらは輝政の兄で次期頭領の繋とその妻、雅美でございます」 父がそう言って俺の方を見る。 そうしたら、俺は次期頭領としてホヤウカムイに挨拶するよう父に言われていた。 ホヤウカムイに気に入られなければ今後我が家は今まで通りの暮らしを送れなくなってしまうかもしれない。 父からそう聞かされていた俺はここで雅美くんとずっと生きていく為にも失敗は許されない、と自分に言い聞かせ目を閉じて深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。 「本日はお越しいただきありがとうございます。道籠家次期頭領、繋と妻の雅美でございます。今後ともどうぞよろしくお願い致します」 ホヤウカムイとその娘に俺が深々と頭を下げると、雅美くんもそれに続いてくれる。 あぁ。 色んな事があって、ありすぎて、だけど、雅美くんが俺の奥さんで、俺たちは正真正銘の夫婦なんだ。 そして。 俺が次期頭領で愛する雅美くんを、雅美くんと暮らすこの地を守っていくんだ。 顔を上げてホヤウカムイの目をまっすぐに見ながら、俺はその決意を新たにした。

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