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第59話
チロが血相を変えてやって来たのは、後始末を終えてすぐの事だった。
「繋、雅美くん、大丈夫……じゃないね。ごめんね、すぐに駆けつけられなくて」
俺のワイシャツだけを着た雅美くんを見て今にも泣きそうな顔で謝ってくるチロ。
「今回現れた悪い妖怪、アラサラウスって言うんだけど、その妖怪がね、ボクに気づいて妖怪は入れないようにこの教室の周りに結界を張っていたんだ」
妖怪は入れない……俺は人間だったから入って来れたって事か。
「何とか結界を破ろうとしたんだけど、そうしてる間に繋がやっつけてくれたんだね。頑張ったね、繋」
「いや、俺は……」
「う…っ、俺、俺は一体……」
俺はただ怒りに任せただけで何も頑張ってない。
そう言おうとした時、輝政が意識を取り戻して起き上がった。
「輝政」
「繋……」
いつもの雰囲気は全くない、憔悴しきったような表情。
「俺は、俺は何て事を……」
「アラサラウスに騙されて身体を乗っ取られちゃったんだよね。あんなに妖怪の匂いプンプンさせてたのに、気づかなかったの?」
「……分からなかった。お前と違う匂いだったし、すごくいい匂いだったから香水の匂いだと思ってた」
「そっかぁ。あいつ、輝政の気持ちに上手く同調して、それで妖怪だって思わせなかったんだね」
「…………」
肩を落とす輝政の背中を、チロは優しく撫でさする。
「俺……妖怪なんかに騙される訳ないって思ってたのに……」
輝政の声がだんだん涙まじりになっていく。
「妖怪の事、ただ嫌ってちゃんと分かろうとしていなかったからこんな結果になっちゃったんだよ。これでもう分かったよね?キミは頭領になる器じゃないって」
「お、おい、チロ……」
「繋、いいんだ、その通りなんだから。それよりも、こんな事になっちまってごめん。松若、酷い事しちまって本当に悪かった……」
「…………」
輝政は目に涙を溜めながら雅美くんに深々と頭を下げた。
そんな輝政に、雅美くんは、
「今後、繋先輩の事を大切に、仲良くやっていってくれるなら許します」
とキッパリとした口調で言った。
「あぁ、約束する。もう繋を妬んだりなんかしない。繋、お前も許してくれるか?」
「許すも何も……でも、もう俺の一番大切な人を傷つけるような事は絶対にしないで欲しい」
輝政に尋ねられ、俺は雅美くんの肩を抱きながら応えた。
「繋先輩……」
瞬間、雅美くんは身体を震わせたけど、すぐに俺の顔を見てその頬を赤らめた。
その可愛らしさに、思わず笑みが零れてしまう。
「あぁ、ありがとう、繋、松若……」
こうして、俺はようやく輝政と心を通わせられるようになった。
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