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第6話

俺達がほんの少しのすれ違いをしたあの日から、どれだけ経ったのだろう。 あの時の佐智の不安な顔、寂しい気持ちを今までちゃんと理解出来ていなかった自分に腹を立てた。 『“いつか”とは言ったものの…何にも進んでないんだよなぁ。これってヤバいよな、また』 ちらりと自分のデスクからガラス張りの向こうを覗き見、佐智が丁度席を立った所のようで自然と目が合った。 あの日から佐智から何も言って来ないのは、俺からの続きの言葉をずっと待っているんだろうと思う。 ここに来て何を迷ってんだよ、俺は。 よしっ!という気持ちと共に、慣れた指使いで画面を操作する。 「あ、佐智?俺。あのさ、今日昼過ぎ頃から外回りなんだわ。早々に終わらせて直帰するから家に来れる?」 『うん、分かった。ご飯作っとくよ、何が良い?』 「何でも。佐智の手料理なら、何食べても美味しいし」 『ふふっ。外回り頑張って』 画面を閉じ、目線を走らせると、佐智が嬉しそうにこっちを見ていた。 「あ、いつ…会社だって事分かってるのか?」 そう呟きながらも悪い気はせず、懸も微笑み返す。 外回りの事を考えると頭が痛いが、でも心は穏やかで落ち着いている。 あいつが傍に居てくれるから俺も幸せな気持ちになれる。 もう壊せない、壊したくないよな…この気持ちを。 「ただいまー…」 「あ、おかえり。思ってたより早かったね」 「そりゃお前の手料理が待ってんだもん、早く帰るに決まってるよ」 「はは、それはそれは。あ、後ちょっとだから先にお風呂入ってきなよ」 「おっ、助かる…もう歩き疲れてさぁ、ヘトヘト」 玄関のドアを開けた途端に美味しい匂いと共に佐智に出迎えられる喜び。 良いよな、こういうの…ずっと続いて欲しい。 湯船に浸かりさっぱりとした後、一緒にご飯を食べ始める。 嬉しそうに、楽しそうに話している佐智を微笑ましく見つめる懸。 「懸…さっきからニコニコしてるけど、どうかした?」 「ん?いや、俺って幸せだなぁって噛みしめてたの」 「突然どうしたの、何か良い事でもあった?」 しみじみ話す俺を、佐智は笑いながら首を傾げる。 「佐智、聞いて欲しい事がある」 「何、外回りで何かあった?」 一息ついて脇に置いた包みに手を伸ばす。 佐智は不思議そうに見ていたが、懸が目の前で蓋を開けて見せたそれを確認すると、目からポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。 「喧嘩した夜から随分と待たせ…って、おい、泣くなよ」 「だってそれって…」 「俺まだ何も言わせてもらってないんだけど?」 困っていて、それでも嬉しそうな顔の懸。 泣いてはいるが、顔は笑顔で綻んでいる佐智。 どちらからともなく、手を重ねあう。 「それじゃぁ、言って?」 「…悪かった、随分と待たせた。これから先もずっと俺の隣で笑っていて欲しい。佐智を幸せにしたいんだ、俺が」 「うん…僕もずっと傍に居たい。懸と…幸せになりたい」 「ん…左手、出して」 懸は外回りの帰りに宝石店へと足を運んでいた。 佐智の手に映える、佐智だけの指輪を買って来たのだった。 決して高くはないけれど佐智への思いが詰まっているその指輪を、懸はそっと優しく指へと滑らせた。

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