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第4話 勉強は嫌いなんだよね
たっぷり遊び疲れて、部屋のベッドに転がってると、本当に子どもの頃を思い出す。
俺は結構な悪ガキで、宿題なんかそっちのけで、夕方、暗くなるまで近所の仲間と遊んでた。
ー楽しかったよな......ー
まぁ、弟妹がいたから保育園にお迎えも行ったけど、一緒に寄り道したり、公園で遊んで帰ったり、それだって楽しかった。
ありあわせの飯食わせて、三人で風呂入って、寝かしつけて...、いつの間にか大人になっちまったけどな。
なんだかしんみりしていると、ドアをノックする音がした。
「はい。......誰?」
「私だ。スウェンだよ。ラフィ」
ひょいと顔を覗かせたのは、やはり金髪で、俺よりやや薄いアメジスト色の瞳をしたイケメン。こいつ、ラフィアンの兄のスウィフトフ。このサイラス家の長男で、十歳くらい年上。
もろエリートで、もう王様の側近の魔術師を務めている。
そう、この世界には魔法とかあって、本当、テンプレまんまな世界。
だから前世を思い出した俺が風呂とか入りたがるとスゴい怪訝な顔をされる。仕方ないだろ、日本人には風呂は最高の憩いなんだから。清潔魔法では癒されないんだよ、俺は。
「またマグリットと遊んでたんだって?」
お上品なスウェン兄様は少しばかり眉をひそめて、可愛い弟の顔を覗き込む。ちょっとキモい気もするけど、俺も弟は可愛かったから、気持ちはわかる。
「以前は乱暴で粗野だからってあんなに嫌ってたのに......」
以前の俺はな。けど、やはり男同士は澄ましてお付き合いするより、一緒にバカやってるほうが、楽しいし、面白い。
「考え方、変えたんだ。僕も男の子だから少しは逞しくならないと」
「おお、ラフィ......」
イケメンが大袈裟に両手を拡げて、もっと眉根を寄せる。あんたはシェイクスピアの役者かなんかなのか?
「ラフィ、お前は逞しくなんてならなくていいんだよ。アントーレ殿下がしっかり守ってくださるから」
そう、このイケメン兄貴は婚約推進派、可愛い弟をダシにして出世を目論む、ちょっとイヤな奴。しかも弟が断罪されるとオーバーに嘆いて、弟の出来の悪さを王子に謝罪する。
元はと言えば、あんたらが過保護過ぎるから使えない奴になっちまったんですけど、ラフィアンが。
「え、でも僕、男だから。自分の身は自分で守れるようにならなきゃ。......殿下がいつも傍にいてくださる訳ではないし」
「それはそうだが......。マグリットとあまり親しくするのは勧められないな」
イケメン兄貴は唇のあたりに細い長い指を当てて言う。わかってるのさ。マグリット・オーウェンは妾の子。だからオーウェン伯爵は夫人の手前、自邸に置きづらくて、サイラス家に預けてる。
「なぜ?マグはオーウェン家を継ぐんでしょ?」
オーウェン伯爵の夫人には女の子しかいないから、妾の子どもでもマグリットが跡を継ぐ。継母の苛めも跳ね返して、立派な伯爵領の領主になる。誇りを持って付き合っていい、タフで男らしいキャラだ。俺は好きだね。
「まぁ、そうだけど。......それより勉強は進んでいるかい?いずれは王子の伴侶になるんだ。王子を助けて国に尽くす、賢く良きパートナーにならないとね」
わかってます。あの王子、馬鹿ですから。学園に入っても側近脅して、試験問題盗ませて、他の生徒に罪を擦り付ける最低ヤローですから。
それを非難したのも婚約破棄の理由のひとつなんだけど、普通ならこっちから三下り半な話だと俺は思う。
「え、ちゃんとやってますよ。ちょっと難しいけど、魔法術もちゃんと勉強してます」
うん。王子の嫁になる気はさらさら無いけど、自立するならスキルはきっちり身につけておかないとね。資格のある無しで実入りも違う。これ事実。だから、最近は訳わかんないテキストもちゃんと勉強してる。ラフィアンは頭は悪くないからあんまり苦じゃないし。
「ならばいい。身体を鍛えたければ、トニーに剣術を習うといい。どうせならきちんと身につけなさい」
「え?トニー兄さん、帰ってくるの?」
途端に、俺、ラフィアンは目を輝かせる。トニーこと、トリスタン・サイラスはラフィアンの次兄で、士官学校に行ってる。マッチョで短髪の強面の兄貴だ。俺は乙女じゃないから、ロン毛のスウェン兄さんより、トニー兄さんのほうが好感度高い。婚約反対派だしね。
「来週あたり休みで帰ってくる。前はあんなに怖がってたのに......。ラフィはまるで変わってしまったね。別人みたいだ」
スウェン兄さんが、肩をすくめて半ば不機嫌な顔をして部屋を出ていった。
そう、俺は変わったんだ。
儚げで頼りないラフィアン・サイラスはキャラ変更して、タフで懲りない一人前の男になって、この屋敷からもこの国からもバックレる。
そうして自由に生きるんだ。
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