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第45話

 そんな僕らを、藍円寺さんが一瞥した。 「怖いか?」 「いや、全く」  ローラが笑顔で首を振った。そして――ニヤリと笑った。  藍円寺さんの前で、この表情を暗示無しでしている姿を、僕は初めて見た。 「藍円寺さんこそ、怖いんじゃないのか?」 「――なんだと?」  あからさまに藍円寺さんが眉を顰めた。彼は内心では、「その通り!」と思っていたが、口では違う事を続けた。 「俺には怖いものなんて存在しない」  吹き出しかけた僕は、俯いて笑みを噛み殺し、頑張ってシリアスな表情を保つ。 「こんな程度の低い物件に駆り出されて、正直迷惑していた所だ。暇で堪らないだろうと思ってな。退屈しのぎに、お前達を呼んでみようと気まぐれを起こしただけだ」  藍円寺さん……指先と膝が震えている。よく見ると、涙もこらえている。強がりながら、ビクビクと怯えている。逆にその緊張のせいで、思ってもいない事を口走ってしまっているらしかった。 「じゃあ、一つ。退屈しのぎに、肩揉みでもしましょうか?」 「っ、あ……の、良いのか? 料金は?」 「――いつも通り現物だ。『命令』だ。俺の正面に座れ」  ローラがその時、暗示をかけた。すると、一瞬で藍円寺さんの瞳がとろんとした。素直にローラの正面に、藍円寺さんが正座する。ローラは、藍円寺さんの和服の首元を指でなぞってから、僅かに見える鎖骨を撫でた。  それを見て、僕は聞いた。 「どこまでするの? 僕、隣に行く?」 「いいや。たまには、視姦も良いだろ」 「僕が嫌なんだよ。可哀想じゃないか」 「分かったよ。じゃ、ちょっと味見する。その後――気分次第で、お前判断で場合によっては、隣に行ってくれ」 「了解」  こうして――ローラの食事が始まった。

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