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第1話 グランギニョルの夜

 人間の性の多様化が世界的な問題となり、この国でも、国民一人一人が持つ番号に、自分の性的指向を明記する事が決定づけられたのは、俺が生まれる少し前の事だったらしい。多くの人は、『好きになった相手の性別が好き』というパターンが多く、俺もそうだ。  俺は好きになった相手の性別ならば、男でも女でも好きだ。多分。  どういう時にこの番号が利用されるかというと、指向限定のサービス利用時だ。リアルだったら、酒場とか。ヴァーチャルだったら、出会い系機能があるアプリやゲームだとか。  例えば俺が最近遊んでいる、【グランギニョルの夜】というVRMMORPGなんかは、性別が男で、性的嗜好にも男を含む者しかログインは出来ない。俺はこのゲームで、【ネジ】という名前で、【歌術士】をしている。歌術士というのは、バフをかける職業だ。  バフというのは、能力を強化するスキルの事だ。職業というのは、他には剣術士や銃術士、聖術士などがある。好きな職業を選んで、レベルを上げていくゲームだ。俺は前面で敵を倒すより、誰かを支援するバフを用いる方が好きな――エンジョイ勢である。ガチ勢は火力を求める事が本当に多い。  このゲームは、出会いを求める……とは限らないが、チャットを始めとした交流を主に楽しむエンジョイ勢と、RPG部分を本気で楽しんでいるガチ勢の間の溝が大きい。 「マスター!」  そんな事を考えながら、【時計の街】の広場で、ぼーっとしていると、ギルメンが俺に声をかけてきた。これでも俺は一応、ギルドマスターなんぞをしている。 「どうかしたのか?」 「今日ナチさん見てないスね!」 「あー」  【ナチ】というのは、このギルドのサブマスターだ。俺のリアフレである。つまり、リアルでも友達だという事だ。大学の同級生である。二十一歳の俺達は、今年で三年生。大学一年時に同じ学科だった事がきっかけで友達になり、暇だったのである日一緒にこのゲームをダウンロードした仲だ。 「今日はレポートのはず」  俺とナチは、リアフレである事を隠していない。だからなのか度々『恋人同士』だと誤解されそうになるが、勘違いである。俺は少し前から、このゲームの中に憧れの人物がいる。まぁ、叶う事はないだろうが。  そう思っていた時、街の雑貨店の方がざわついた。俺とギルメンの【アンゴ】が揃って視線を向けると、長身の二人連れが、角から現れた所だった。片方は背に大剣を、もう片方は銃を背負っている。剣術士と銃術士、この二人は――有名なガチ勢である。  ガチ勢中のガチ勢といわれるギルド、【ジェネシス】のギルマスとサブマスだ。切れ長の瞳をした無表情の剣術士が、ギルマスの【ヒース】である。俺の憧れの人だ。その隣にいるサブマスの銃術士が、【マオ】である。こちらも長身だ。マオは形の良い瞳をしているが、いつも何かを睨み付けているように厳しい顔をしている。 「ガチ勢怖い……」  俺が眺めていると、アンゴが呟いた。アンゴはまだ初心者である。レベルキャップがLv.500のゲームなのだが、アンゴは現在Lv.30だ。レベルだけならば俺もナチも、ガチ勢二名と同じくLv.500であるが、あちらの二人は各種ステータスのポイントやレベルもカンスト、スキルレベルも高く、装備もそれこそ廃神とでもいうしかない強い品であり、万が一怒らせてPK戦になんてなったら、秒で負ける。  このゲームはR18なので、PKやSEX機能が実装されている。PKというのは、対人戦だ。殺し合いである。基本はモンスターを討伐するゲームではあるのだが。 「俺達だってチャットガチ勢だろ! チャットだけなら誰にも負けない!」 「マスター……ポジティブ過ぎっす。それにしてもガチ勢なのにイケメンアバターとか……絶対あれ、アバターにも鬼課金して、美形作ってますよね! 俺なんてリアルマネーがないから、顔はリアルと共有してるのに!」 「アバター課金額なら俺も負けてないかもよ?」 「それは信憑性ある。マスターも顔だけならやり合えそう!」 「だからコミュ力もやり合えるって! あ、いや、コミュ力は俺の圧勝?」 「圧勝ス」  と、そんなやりとりをしつつ、俺はチラチラと憧れの人であるヒースを見ていた。別に強いから憧れているわけでは無い。  実は俺は、初心者支援が趣味なのだが……一年半前にヒースがこのゲームを始めた直後、サービス開始時からプレイしていた俺は、支援をした事があるのである。あの時の初心者が今ではガチ勢……――というのはつまり、それだけ頑張ったという事である。たかがゲーム、されどゲーム。俺は、努力できる人って、格好良いと思う。だから憧れなのだ。 「よし。俺もレポートやってくるわ」 「まだやってなかった!? ナチさんを見習うべきスよ」 「アンゴは今日は仕事は?」 「夜勤です」  今日も街は平和だ。俺もそろそろ現実逃避をやめて、課題を片付けるか……。  こうしてこの日は、ログアウトした。

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