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【番外】リゾート地への小旅行・後編

 エレベーターホールに出た俺は、ヒースを見上げる。ヒースもまた俺を見ていた。  その時、一拍ほど遅れて、俺達が乗ってきたのとは、別のエレベーターの扉が開いた。 「あ」  何気なくそちらを見た俺は、思わず声を上げた。 「ネジ!?」  それはあちらも同様で、そこにはナチとマオが立っていた。マオも驚いた顔をしているし、俺の隣ではヒースも息を飲んでいる。 「お前らも来てたのか」 「マオ達こそ。俺はネジと昨日から来ていて、明日帰る」 「同じ日程か。俺も昨日からナチと来てるんだよ」  マオとヒースのやりとりを聞いていると、ナチが俺に走り寄ってきた。 「どこ行ってきたの?」 「俺とヒースは、アニマルパークと殺生石を見てきたんだ。ナチは?」 「ん……ええと、テーマパークとか!」 「そっか」 「帰ったら渡そうと思ってたんだけど、はいこれ。お土産!」 「俺もナチに買ったんだ」  その場で俺達はお土産の交換をした。  ナチが買ってくれた品をその場で見たら、可愛いスナネコのハンドタオルだった。俺絵が好きな傾向の刺繍が施されていた。 「ネジ達は何号室?」 「俺とヒースは、7001だよ。ナチ達は?」 「隣じゃん! 俺達、7002号室だよ!」  そんな話をしながら、俺達は笑いあった。それぞれデートで小旅行に来ていたのも、そのタイミングも場所もびっくりではあったのだけれど、なんだか嬉しい。 「とりあえず部屋に行くぞ」  ヒースの声に、頷き俺達は歩き始めた。そしてマオとナチは一度部屋に荷物を置いてから、俺達の部屋へとやってきた。  二人とも浴衣に着替えていた。それは俺とヒースも同じである。  フロアのディスペンサーで、俺とヒースは、アルコールを調達していたので、それをテーブルの上に置いた。四人で窓際の席に腰をおろす。ヒースの隣は俺で、俺の正面がナチ、その隣がマオだ。少し開けてある窓からは、心地の良い風が吹き込んでくる。ドームで管理されている風だけれど、リアルの初夏の気候が設定されているようだった。その向こうには海が見え、潮騒が響いてくるように思えた。 「しっかし、タイミング。すごいな」  マオの言葉に、楽しそうにヒースが笑う。  するとナチが、早速缶酎ハイを手に取り、蓋をあけながら頷いた。桃味だ。俺も同じものを手に取る。マオとヒースは、瓶に入ったジンを手に取った。 「ナチとネジは気が合い過ぎるきらいがあるな」 「な。俺は今でもたまにネジに嫉妬する」  そんな二人のやりとりに俺が噴き出すと、ニコニコとナチが笑った。 「俺とネジほど仲がいい親友って、ちょっといないよね」 「うん。ヒースとマオも仲がいいと思うけどな」 「比べ物にならないよ。俺とネジの方が絶対親しい」 「そ、そっか?」  嬉しいなと純粋に思う。するとヒースが二人には見えない位置で、俺の腰を抱いた。不意な事に、俺はドキリとしてしまう。マオは目を据わらせてナチを見ていた。 「ナチ。お前の一番は、俺だよな?」 「選べない」 「おい」 「恋人として、一番はマオ。親友はネジ。ダメなの?」 「許す」 「上から目線じゃない?」 「なっ……だ、だってだな、俺は――」 「はいはい。それくらいマオは俺の事を愛してくれてるんだもんね?」  目の前の二人も幸せそうだなと思ってから、俺はヒースの横顔を見た。俺の腰に触れたままで、ヒースは前を向いていた。だが俺の視線に気づくとこちらを見て、口元を綻ばせた。俺の大好きな笑顔だ。  その日は、それから四人で、夕食までの間雑談をして過ごした。  そして明日は、四人で軽く回ろうかと話してから、それぞれの部屋に食事が運ばれる時間に解散した。 「だけど驚いたなぁ」  俺が改めて述べると、俺を後ろからギュッと抱きすくめて、ヒースが喉で笑った。 「そうだな。新婚旅行は被らないことを祈ろう」 「だ、大丈夫だろ? さすがにそれはないだろ」 「どうだかな?」  楽しそうに笑っているヒースに顔だけで振り返り、俺は少しだけ背伸びをして、自分からキスをした。するとヒースが瞬きをしてから、より深く俺の唇を奪った。  ――このようにして。  俺とヒースの、そしてナチとマオの二人も、その後も楽しい日々を送った。  ログアウト不可から始まった関係が、今では新しくスタートを切り、みんなが今、幸せである。友達は大切だし、恋人も大切だし、というのは、ナチが最初に言ったのだけれど、俺も心底そう思う。その後も俺達は、四人で遊ぶこともあった。そんな風にして流れていく日々は、俺にとってすごく貴重で、大切でたまらない。だから、これからもみんなで新しい未来を進んでいこうと、俺は強く、決意したのだった。なにせ俺達の新しい日々は、まだ始まったばかりといえるのだから。  ―― 終 ――

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