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【R-18】思惑

仕切り直しえっちに挑む二人。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「あのさ……」 「んー?」  うるさい教室の中で、いつも通りに弁当を広げた昼休み。  すぅ、と。息を吸って吐いて、冷静を装ったのに。 「…………今日、(うち)、来ない……?」 「? シュウの家?」  声が震えそうになって、最低限のことしか言えなかった。  絞り出した声に返ってきたのは、キョトンとした声。  もう一度。今度はなんでもないフリを装って、箸を持ち上げる。 「今日……誰もいない、から」 「へ? ……----っ」 「来ない?」  目は、見れなかった。  心臓が、まるで一試合終えた後みたいに、全力でバクバクして。  握りしめたプラスチックの箸は、今にも折れそうにメキメキ軋んだ。  誰もいないから、家に誘う。  その意味をさすがに理解しているヨウが、あわあわモジモジして、キョロキョロ教室を見渡したあと。 「………………い、く」  こっくり。  小さな声で呟いて、こっそり頷く。  チラ、とヨウに目を向けたら、真っ赤になった顔を隠すみたいに俯いて、弁当箱に突っ込んだ箸で、ご飯をグリグリ抉っていた。  五時間目を終えた休み時間。誰にも顔を見られないようにトイレに走って、火照る顔を水でばしゃばしゃ洗う。 『…………今日、家、来ない……?』  シュウから唐突にそんなことを言われたのは、昼休みのこと。  別にシュウの家に行くのは、初めてじゃない。付き合う前にも、何度か行ったことがある。その時はゲームしたり、たまたま見つけたエロ本(巨乳特集だった)をからかったりしながら。そりゃ女がいいよな、なんてほんの少し落ち込んだりした。  だけど、今日は。  誰も家にいないから、とこっちも見ないでわざわざ付け足した。  試験前で、部活は休み。  随分前に初めてソウイウコトをしたけど、あの時は突然だったし、むちゃくちゃだったから。次の日、お腹は下すわ、熱は出るわで、結局学校を休んだ。  そのせいもあって、あれからシュウとは。キスはするし、抱き締めたりもするけど。最後までは、シてなかった。  そこまで考えて、更に顔が熱くなる。  違う、別に。シタイとかそんなことばっか考えてた訳じゃない。  だけどやっぱり、優しいキスされたらふわふわ幸せになるし、ちょっとエロいキスされたら、ソンナ気になる。  試合に勝って、部員全員駆け寄ってきて揉みくちゃにされながら、どさくさ紛れで抱き締めあって。シュウの匂いを感じたら、ほんの少しソンナ気になったりもしたけど。  別に、四六時中、悶々としてた訳じゃない。  だけど。 『今日……誰もいない、から』  いつものシュウからは考えられないような、モジモジした挙動不審な誘い方されたら、誰だってソウイウコトを想像する。 (……あー、もうっ)  ガシガシ頭を掻いて、目の前の鏡に写る自分を見れば、顔は真っ赤で目も潤んでて最悪だ。  どう考えたって、ソノ気になって発情してるようにしか見えない。  落ち着け、沈まれ、って言い聞かせて、出しっぱなしだった水で顔を冷やす。  ばしゃばしゃ顔にかけてる水を、いっそ頭からかぶりたいとすら思いながら、 「--------っあ~、しまった」  タオルを持ってくるのを忘れたと、びしょ濡れのまま思い出した。 「あ~、……酷い目にあった……」  ぶつくさ言いながら教室に戻ってきたヨウが、オレの前を通りすぎていく。 「……ヨウ?」 「っ……なに」  呼び止めたら、ぎく、と肩を揺らして、目元を紅く染めたヨウが、ぎこちなくこっちを向くから。  オレまでつられてドギマギするのは、仕方ないと思う。 「顔」 「……顔?」 「なんか付いてる」 「ぇっ?」  トイレットペーパーはさすがにまずかったか、なんて意味不明にぼやいたヨウの腕を引いて。されるがままに近寄ってきたヨウの、顎の端にいくつも付いている白いゴミを取ってやる。 「っ……あり、がと」  触れる度真っ赤になるのが可愛いくて、ちょっと苛めたくなるのに。  間抜けなチャイムが鳴り響くから、モヤモヤしたイタズラ心だけが取り残されて。 「----ヨウ」 「んぁー?」  ホッとしたみたいな顔で席に戻ろうとするのを呼び止めて、気の抜けた声を出して振り返ったヨウに囁く。 「エロすぎだから」 「っ、な!?」 「顔。バレるよ」 「っ、……~~っ」  ぼんっ、と真っ赤になって、パクパク口を開け閉めするヨウが、心の底から可愛くて困る。  手を伸ばして、もっと苛めようとしたのに。  ガラッとドアが開いて、教室に教師が入ってきたのを機に、他の生徒達がパラパラと席に戻ったせいで、逃げ遅れたヨウが目立つ。 「おー? 何してんだ仲良しコンビ」 「っ、別に何もっ」 「さっさと席着けー」 「すいませっ」  わたわたと言い繕って、転びそうな勢いで席へ戻るヨウの、耳は真っ赤なままだ。  きりーつ、と日直の声が響いて、あっちこっちの椅子がうるさく動く中。  ちら、と後ろを振り返った、真っ赤な顔したヨウに、睨み付けられた。 (後で覚えとけって顔だな、ありゃ)  気だるげに礼をして、着席の号令を待たずに椅子に座る。 (……それはこっちのセリフだよ)  どれほど待ったことか。  待つ間に、どれほど煽られたことか。  あの日のむちゃくちゃな衝動を、勿論何度も後悔したし、次は絶対に優しくと思っているけれど。  何千回でも刻めだなんて言ったわりに、刻む機会はまるで訪れなかった。  あれ以来、物陰に隠れてのキスはしょっちゅうしていたし、抱き締めたりもしたけれど。  ソウイウ雰囲気になるたび、一瞬、ヨウの目が怯えて曇るから。  流されるままになだれ込んで、また傷つけられるかもしれないことに、無意識に怯えているんだろうなと思ったら、手も足も出せなかった。  あの悪夢を。  忘れろと言われて忘れられるほど単純だったなら、お互いもっと楽だろうに。  なまじ実体験してしまったがために、悪夢はたぶん、よりリアルになった。  だからこそ。  偶然とは言え、 今日は本当に運が良かった。  介護士の母は夜勤、サラリーマンの父は出張、妹は林間学校で、今夜一晩は家に誰もいない。  つまり、時間をかけてじっくり、ヨウを愛してやれる。  何千回の一回目を、悪夢を打ち消す一回目にしてやると密かに誓って。  つまらない授業はそっちのけで、どんな風に愛してやろうかと、思い付くままに心のノートにメモしていった。  ついに迎えた放課後。  色んなことを考えていたら、授業はいつの間にか終わっていて、真っ白なノートが出来上がった。  見てないフリでそっと閉じたノートをぱかんと机に放りこんで、薄っぺらい鞄を持ち上げながら、もうソワソワする。  ちら、とシュウの方を向いたら、ん? と余裕綽々な顔して片眉を上げたシュウが、ニッと意地悪く笑って。すぃ、と目線を後ろの出入り口に流して、すくっと立ち上がるから。  つられてガタンっと席を立って後を追いながら、胸を破って出てくると錯覚するくらいに、ばたんばたん暴れる心臓を押さえつける。  ぎこちなく歩いて、先に行ってしまったシュウをモタモタ追いかけて。 「………………シュウっ」  ようやく廊下に出たら、凭れていた壁から体を起こしたシュウが、ふ、と優しく笑った。 「どしたの、そんな顔して」 「ぇ?」 「----発情期?」  相変わらずモタモタ歩いて傍へ寄ったオレの、耳元。くすぐるみたいな甘い息と一緒に吹き込まれた、聞いたことないような低い声。  ぞく、と。背中を何かが走って、腰が砕けそうになる。  かくっと落ちそうになった膝に力を入れてシュウを睨み付けたら、余裕綽々の顔したまま、優しい目をして笑い返された。 「帰ろっか」 「……うん」 「電車にしとく? そのまま自転車なんて乗ったら、事故りそうだよね」  誰のせいかなんてことは棚に上げて囁くシュウが、憎たらしいのに。  だけどシュウの言うとおり、どう考えたって、こんな状態で自転車なんて乗れる訳がなくて。  憮然と頷いたら、ますます優しい顔したシュウが、わしわしと頭を撫でてくる。 「よし、帰ろう」  にこ、と笑ったシュウが、ふざけるみたいにオレの肩を抱いて、耳元。 「帰ったらもう、我慢しないから」 「----っ」  心臓に悪いセリフばっかりポンポン聞かされて、頭も心も----あっちもこっちもパンパンだ。  とにかく真っ赤になったままの顔が熱くて、じゃれてるようにしか見えないシュウが支えてくれるのに甘えながら、ふらつく足で歩き出した。  ほんの少しからかっただけのつもりなのに、ヨウは見事なまでにオレの思惑にはまって。ちょっと誰にも見せたくないくらいに、淫靡で艶っぽい表情をするから、焦った。  こんな顔。誰が見たって欲情する。  誘ってると思われてもおかしくないその顔を、せめて少しでも隠そうと、ふざけたフリで肩を抱いた。  のが間違いだった。 (……近い)  当たり前だ。肩を組んだら顔が近づくなんて。  顔が近づいたら体だって近づくのは、当然のことだ。  ふわりと香るのは、整髪料(ワックス)か、シャンプーか。それとも体に残ったボディソープか。  なんにせよ、こんなに毒なものはない。  失敗した、と後悔したものの、こんな顔したヨウを人前に晒すなんて危険だ。  はぁ、と熱い息を一生懸命吐いて、一生懸命吸う唇。悩ましく瞬きを繰り返すたびに、男の癖に長い睫毛が揺れる。  家まで。とにかく家に入りさえすれば、後はもう、誰にも邪魔されない。  こんな据え膳、いつまでも後生大事にとっておけるはずもなくて。  知らず早足になるのを止められないまま、足下の覚束ないヨウを、半ば引きずるように駅へ急いだ。  ***** 「あら、おかえりなさい」 「っ!?」  がちゃ、と。ドアを開けたら母親の声がして。  ヨウをドアに押し付けて唇を塞ぐつもりだったオレは、呆気にとられることしか出来ずに。 「…………シュウ?」 「ちがっ、……ホントに誰もいないはず……っ」  どういうこと、と。蕩けた目を怒らせたヨウに、わたわた言い訳を探していたら。 「……いつまで玄関に…………、お友達がいたのね珍しい」  きょとん、とリビングの入り口から顔を覗かせた母親が、あら、と表情を改めた。 「いらっしゃい」 「お邪魔します」  にこり、と余所行きの顔を取り繕って笑ったヨウを、とりあえず自分の部屋へ案内しながら母親の予定を探る。 「今日夜勤って言ってなかったっけ?」 「そうよ~。後30分くらいで出るから、後お願いね。今日は誰もいないから、戸締まりとか気を付けてよ」 「分かってるよ」  一応、自分の認識が間違っていなかったことにホッとしながら、その30分が惜しくてギリギリする。  今にも押し倒してくれと言わんばかりだったヨウは、母親の顔を見た途端に欲をすっぱり消し去ってしまった。母親が出掛けるまでは、指一本触れさせまいと言わんばかりのよそよそしさだ。  こんなにも近い二人きりの空間なのに、とんでもなく遠く感じながら。  とりあえずの時間潰しに、冷たい飲み物でも用意することにした。  なんか飲みもん取ってくるわ、と呟いたシュウがそっと部屋を出ていって、正直ホッとした。  お母さんがいるだなんて思ってなくて面食らったら、ビックリするくらいアッサリ、火照り続けていた体から熱が引いて。  さっきまでの異様な興奮が引いたせいか、なんだか急に、逃げ出したいくらい恐くなってきて混乱する。  だけど、さっきまでの異様な興奮の名残なのか、シュウの匂いで満ちた部屋にいると、背中がゾワゾワして、変なことばっかり考えてしまうから、またやっかいで。  恐いくせに押し倒したかったり、お母さんがいるんだからダメだよとか思うくせに押し倒されたかったり---- 「おまたせ」 「っひゃぁっ!?」 「…………ヨウ?」  がちゃ、とドアが開いて、飛び上がるくらいビックリして変な声が出る。  ドアを開けて固まったシュウが、どしたの、と目を驚かせてポカンとするのに、ガガーッと照れた。 「……なんでもない」  ふるふる手を振って、ごにょごにょ呟く。  なんでもないアピールのはずなのに、顔が熱くなってきて途方にくれながら、棒立ちのシュウの手から、ペットボトルを1本勝手に取り上げたら、さんきゅう、と呟いて蓋を開けた。  がじがじとペットボトルの口を噛みながら、ぼんやり部屋のどこかを見つめるヨウを、じっと見つめる。  さっきの過剰反応は、いったい何に対しての驚きだったんだろうか。  ずっとペットボトルを銜えてるくせに、全然減らない中身。ただ、コリコリとペットボトルの端を噛む音が、何かを煽ってくるような気がして眩暈がする。  とはいえ、後15分ほどで母親が出ていくはずで、とにかく15分耐えきれと、自分に言い聞かせるしかない。 「…………ヨウ」 「んー?」 「歯、おかしくなるよ」 「んー」 「聞いてる?」 「んー」  こりこり、かりかり。  上の空の返事に紛れていつまでも続く音に苦笑したら、す、と近寄ってペットボトルに触れて。ヨウの顔を真正面から覗き込む。 「ヨウ」 「----っ、わ、ぁ!?」  真ん丸に見開かれた目がオロオロとオレを見つめて、驚いて跳ねた手のせいで、制服にボタボタとペットボトルの中身が零れた。 「ちょっ、ヨウ! 零れてるから!!」 「はっ? っ、つめた」  わぁ、とようやく慌てて襟元を掴んだヨウが、情けない顔でしょんぼりする。 「…………なにしてんの」  やれやれと呆れたら、ふる、と瞬きで睫毛が揺れる。 「わかんね」  しょんぼり声は、今にも泣き出しそうに揺れていて。  あーぁー、とオレまで情けない声を出しながら、ひょい、とヨウの制服の裾を掴んだ。 「っぇ?」 「脱げ」 「ばっ、何言って……ッ」 「違うから、そうじゃなくて!」 「やだ、やめろ離せっ」 「シミに」  いやだぁ、とジタバタするヨウを宥めすかそうとした時だ。 「アンタ達、何してんの?」  むふ? と、なんでだか嬉しそうな含み笑いを顔に載せた母親が、勝手に部屋のドアを開けていて。  ニヤニヤ笑う母親の視線を辿って自分達に目をやれば、制服を脱がされかけのヨウが、羞恥に顔を染めてぶんぶん首を振り、オレはその上に馬乗りだった。 「----っ、ちがっ」 「なぁに、仲良しって知ってたけど、ちょっと」  いやぁん、と年甲斐もなく黄色い声をあげた母親に叫ぶ 「バカかっ! ジュース零したからシミになる前に脱げって言っただけだっ!!」 「だって馬乗り……っ」  んっふふ、と楽しそうに笑う母親の声に、バッとヨウの上から飛び退く。 「いーからさっさと仕事行けよ!!」 「なぁによ~、いいじゃないちょっとくらい楽しんだって。ケチねぇ」 「誰がケチだ誰が!」 「全く。……とりあえずお母さんもう行くから、後頼んだわよ。----ヨウくん、だっけ?」 「っはぃ!?」 「洗濯機、使って良いからね」 「アリガトゴザイマス……」 「じゃ、行ってきま~す」  ひらひらと手を振って、楽しげに鼻歌混じりで玄関へ向かう母親に、ハタッと気付いてようやく声を荒げた。 「~~っ、つーか、ノックしろっていつも言ってんだろぉぉぉ!」  返ってきたのは、おほほほほ~、なんていう、ついぞ聞いたこともないような、上品からは程遠い楽しげな笑い声だった。  *****  母親が出ていった後。  とりあえず洗濯機に制服を放りこんで、一時しのぎの着替えとして、渋々ながらユニフォームを貸した。そのままでいいじゃんと言ったら、泣いた後の目で睨まれたのだ。  オレのユニフォームに着替えてちょこん、と部屋の隅に座ったヨウは、ふて腐れたような顔をしている。 「…………あのさ」 「…………うん」  せっかく、仕切り直しが出来ると思っていたのに。あんなにも出来上がっていたはずの雰囲気は、木っ端微塵に打ち砕かれて、むしろよそよそしいほどで。 「…………ごめん、なんか」 「……別に……」  ぎこちなく謝れば、完全にやる気をなくした声でぼそりと呟いたヨウが、はぁ、と大きな溜め息を吐いて苦笑う。 「…………なんかさ、……なんか……オレらってなんか……タイミング合わないな」  タイミング? 違うか、なんだろ。  はは、と乾いた哀しげな笑いを漏らしたヨウが、ふ、と息を吐く。 「なんかもう……よく分かんないや」 「ヨウ……」 「……シュウは?」 「何が?」 「なんか、分かんないけど……。どうしたいんだろって、思って」  落ち込んだ声が、ぼんやり呟くのを。 「オレはシたいよ」  遮るみたいに放った声に、ヨウが呆気にとられた顔をするから。  真っ直ぐ見つめて、言葉を重ねた。 「シたいよ、オレは」 「……」 「ヨウだって、そのつもりでここまで来てくれたんじゃないの」 「……そうだけど……」  だってもう、そんなカンジじゃないじゃん。  乾いた笑いを浮かべたヨウが、オレから目を逸らす。 「そんなカンジじゃないのはヨウだけだから」 「……」 「オレはシたいよ。我慢しないって言ったじゃん」 「……」 「我慢しないよ、もう。……だって、あれから、めちゃくちゃ我慢してたんだ。キスした時だって、ホントなら流れに任せて最後までシたかったし、抱き締めた時だって、そのまま押し倒したかった」  言いながら、ヨウとの距離をジリジリと詰めたら、気付いたヨウが後退りする。 「ヨウは? シたくなかった?」 「そ、れは……」  す、と伏せられた目。  じり、と迫って後一歩のところまできて、そっと手を伸ばしてヨウの顔に触れる。  ぴく、と肩が揺れて、戸惑った目でオロオロ視線を彷徨わせるのを、じっと見つめて絡めとった。 「刻んでいいって言ったじゃん」 「……っ」 「何千回でも刻めって言ったじゃん」  さっと紅くなったのはたぶん、自分の恥ずかしいセリフを再現されたせいだ。 「刻まないと、オレのになってくれないんでしょ」 「っ、ぁ……」 「なら刻む。オレのにしたいから」  ぎゅっと目を閉じたヨウの額に、ちゅっと音を立ててキスをひとつ。 「オレのにするよ」  いいんでしょ? と、確認と言うより念押しに近い音で紡いだら、返事は聞かずに唇を塞いだ。 「しゅ」 「オレのにするから」 「ぁ……」  胸を押す弱々しい手を取って唇を寄せて。ちゅぅ、と指先を吸って甘噛んだら、ぱくり、と人差し指をまるごと食べる。 「っ、ゃ、……ぁ……」  手を震わせてゆるゆると首を振るヨウの指を食べたまま、舌を動かしてぬるぬると舐めたら。  蕩け始めた目をオレから逸らすことも出来ずに震えるヨウの、目を見つめたまま、ちゅぷ、と唇を離して 「いいよね」  決めつけて放った声に、震えたまま頷いたヨウの唇を貪った。  *****  昼からずっと、言ってみればオアズケだった。  アクシデントで鎮まったと思ってた熱は、軽くつつかれただけで簡単に火がついて。燻ってた分、あっという間に燃え広がった。 「ま、ぁって……」 「待たない」 「ま、っ……」 「待てない」  強引な目。  器用で淫らな指先。  柔らかくて優しい唇は、舌と一緒に快感を掘り起こしては去っていく。 「しゅ、……っ、しゅ、ぅ」  助けを求めるみたいな声が情けなく零れるのを、嬉しそうに目を細めて見下ろすシュウが。  すっかり出来上がったオレの体に、また触れてくる。 「ゃ、めぁっ……っ、ぁ」 「すごいね」 「ぁっ……、に、が?」 「ヨウが、こんなに敏感なんて、思ってなかった」 「ちがっ……」 「違くないよ。だって、まだちょっと触っただけなのに。……もう、パンパンだよ」 「ひやぁッ……そっ、だメッ」  優しいキスと深いキスを繰り返して、指を10本とも食べられて。バクバクうるさい心臓の上の飾りを指でこねくり回されて、唇で優しく撫でたと思ったら、甘噛みされて。顔からおへそまで全部、余す所なくキスされた。  火照った体の、どこでも。指先で触れられただけで、腰が跳ねる。  もう、ズボンの中は、随分前から痛いほど苦しくなっていて。  じわじわ溢れる快楽の証でじっとり蒸れ始めてるのも、自分で分かるくらいだ。  そこを、急に触られたりしたら 「ぁ、ぁ……ッしゅ」 「ん?」  意地悪な目に、泣きながら懇願してしまうじゃないか。 「もぉ、やぁ、ぁ」 「何が、嫌?」 「やぁ」 「言って、ちゃんと」 「ひっ」  意地の悪い低い声が、耳の奥に注ぎ込まれるのと一緒に、耳朶をかじられて。  とくん、と。欲が小さく弾ける。 「やっ……シュウっ……シュウッ」  震える手を伸ばして、自分だってデカくしてるくせに余裕綽々なシュウに触れて。 「っこれ……ほし……っ」 「……ヨウ」  涙が。パカパカ湧いてくる。  嬉しそうに弧を描いた目が近づいてきて、涙を吸ったシュウが。 「まだ、だぁめ」 「っな、んでっ」 「せっかくだから」 「な、にが、ぁ」 「オレに溺れて」  ふわ、と。  今まで見たことないような優しい笑顔で意味不明なこと言ったシュウが、だけど優しい手付きで、汚れちゃうね、とズボンと下着を脱がせてくれた。 「しゅっ……、しゅ、ぅ……ッ……ぁ、ッぅ」  オレを求める声と嬌声が、交互に響いて耳を愉しませてくれる。 「もっ……ッンく、ぁ……ッしゅ」  開きっぱなしの唇を伝う涎を舐めとって、誘う舌に乗り上げて口内を貪る。 「ふっ……んぅ、ぁ……っは、ァ」  玉みたいになってポタポタ零れる無意識の涙と汗を、いっしょくたに飲み込んで、散々弄んだ末にぱくぱくとオレを誘う後ろを放置する。  何度出したのか。  とろとろと白い蜜を溢れさせたそこは、痛そうなほどに膨らんで、力なく震えている。  筋肉が付かないと嘆く、薄くて滑らかな腹の上は、白濁に汚れてるのにとんでもなく綺麗だ。 「ヨウ」 「んぁ……?」  くれるの? と蕩けきった目だけで聞くヨウに、柔らかくて笑って 「まだだよ」 「、ンでぇ」 「こないだのお詫びだから」 「……やぁ、ら……も……ちょぉだぃ」 「もっと……ここ、柔らかくしなきゃ」 「やぁぁァッ、ひ、ッ……んっ、ア」  つん、と指先でつついたその刺激に腰を揺らして、薄くなった白濁を零したヨウが咽び啼く。 「ちょうだぃ……ちょうだぁ、ン」  すがる手のひらがオレの熱を撫でて、ゆらゆらと腰が揺れる。  譫言を零して欲しがる唇を塞いで、白い腹の上に熱を(こす)り付けた。 「んんんッ……そこじゃ、なっ、くてッ」 「ここじゃなくて?」  ん? と意地悪く聞けば、涙目のヨウが、ぷしゅ、と鼻を鳴らす。 「いじ、わる」 「ん。だって、オレも今日まで()らされたもん」  おあいこじゃない? と笑って、首筋に噛みつく。 「言ってよ、ヨウ。どこに欲しいの?」  ぐり、と熱で腹を抉るように押せば、身悶えて首を振ったヨウの顔から、汗と涙がきらめいて飛ぶ。 「自分で、広げて見せてみて。どこに欲しいの?」  言えないなら導いてみせてよと、意地悪く囁いたら、きゅう、と目を閉じたヨウが、震える手を後ろへ伸ばした。 「っ、く……ッ、……いじ、わるッ」 「あ、つぅッ、ぁ」 「っ、……よ、う」  ゴム越しなのにとんでもなく熱い楔に貫かれて、ぎゅう、と無意識に中が締まる。  苦しげに呻いたシュウは、オレの真上で辛そうに眉を寄せていて。  いい気味、と笑うはずだったのに、締め付けたせいで苦しくなったのは、オレも同じで。 「っ、しゅ、……っ、ぁ、くるし、ッ」 「待って、痛い今ムリ」  緩めてちょっと、と情けなく零したシュウの悲鳴じみた願いは、だけど叶えられるはずもない。 「む、り、……ぃァ」 「んで、緩めて、ッて」 「わかん、な、ぁ」  締める緩めるを自在に操るなんて高度な技術は、持ち合わせていない。  後ろは勝手に蠢いて、勝手に貪っているだけだ。 「ヨウ……ッ」 「む、りだ、ってばぁ」  無茶言うなよぉ、と情けない涙が溢れて、ただでさえ息苦しかった胸が、さらに苦しくなって。浅い息を繰り返すしかない。 「よう……」 「んぅ? っふ、ぅ」  苦しい目をしたシュウがゆっくり近づいてきて、苦しい呼吸を宥めるみたいな、優しいキスをくれる。 「しゅ……、ンっ……しゅう」  柔らかく中をくすぐって啄む、うっとりと優しいキスに酔って、うっすら目を開ける。 「そう……じょうず」 「なに、が……?」 「緩んだ」 「な、か……?」 「そ。今……むちゃくちゃ柔らかくて、オレのこと優しくはむはむしてくれてる」 「はむはむ……」  ふんにゃりと幸せそうに微笑(わら)ったシュウの、言葉のチョイスに少し笑って。 「きもちぃ? しゅう」 「ん」  ()けそう、と。(とろ)けた微笑(えがお)でシュウが呟く。  あぁ、幸せだ、と思ったら。  涙がボタボタ零れたからおかしくて。 「ぉれも、きもちぃ」  ビックリした顔をするシュウの、頬を両手で挟んで。  触れるだけのキスをした。  *****  今日はほとんど傷にならなかった噛み痕を、少し残念な気持ちで撫でながら、すこん、と眠りに落ちたヨウを見つめてみる。 『さん、じゅっ、ぷん……』 『ぇ?』 『たっ……たら……ぉこ、し、て』 『ヨウ?』  切れ切れの言葉を、聞き返した頃にはもう、それはそれはあどけない、柔らかな寝顔を晒していた。  健やかでのびのびしたその寝顔に、ふ、と顔が綻ぶのが分かる。  あぁ、こんなにも愛しいのかと1人笑って、そっと頬を撫でたら。 「ん……」 「~~っ」  すり、と。撫でる手に擦り寄ってくる可愛さに悶絶して。  30分だなんて言わず、今日は泊まっていけばいい、だなんて勝手に決めつけて。飽きることなく寝顔を見つめていた。

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