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第23話

みんな零のことを覚えてすらいなかった。 零は俺以外の記憶から、消えてしまったのだ。 俺が何を言ったって、零の存在、ましてやアイスの存在は誰も信じてくれなかった。 俺を病気だと揶揄する奴らもいた。 「何が運命だ……。」 俺と零の出会いは、偶然ではなく必然だった。 もし本当に俺達が運命の相手なら、 零が溶ける必要はあったのだろうか? 「何がアイスだよ……。」 もしかしたら、全部俺の妄想だったのかもしれない。 一瞬でもそんな考えが頭をよぎった。 けれど、俺の家には零が存在した証が、いくつも残っていた。 キッチンに並べられた対のマグカップ。 ベッドと並んで床に敷かれたマットレス。 リビングの床に散らばった未完成のパズル。 鍵に付けられたレモンのキーホルダー。 誰も俺一人で暮らしてちゃ、ないはずのものばかり。 零は存在した。 冷たい中に感じた、零の温もりを覚えている。 幻なんかじゃない。 確実に生きていた。 「ざけんなよ……。」 俺の脳裏には何度も甦る。 腕の中で消えていく零の身体。 消えてるくせに、幸せそうに微笑む零の瞳。 最後に『好き』と動いた零の唇。 そして、あいつが大好きだった檸檬の匂い。 もしかしたら、零が俺の首筋を嗅ぐたびに言っていた匂いは、これのことだったのかもしれない。 零は俺の一部と共に溶けたのだ。 「零、本当に幸せか……?」 聞こえてるか、零? 俺は一生お前のことを忘れない。 『永遠に覚えていてもらえるなら、嬉しい。』 零はそう言ったけど、 俺はこれからもお前と生きていたかった。 寂しがりやで、いつも不安そうなお前に、 これからも何度も直接伝えたかった。 「愛してるよ、零。」 もう届くことのない、 消えてしまった君に捧ぐ、永遠の誓い。

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