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第7話 二度目と、初めて(1/13)
レイがその髪を解いても、後頭部の傷痕は、すぐには見えない。
けれど、こうして髪を洗う姿を見れば、それがどれほど広く深い傷だったのかが分かった。
「……お前、もしかして、そのハゲのせいで結婚できなかったんじゃ……」
「違うって!」
俺の言葉が終わるよりも早く、レイが否定する。
……それなら、いいんだが……。
「俺が言わなくても、結局おんなじ事言うのかよ……」
頭を下げて髪を洗うレイが、何やらぶつぶつと不服そうに呟いている。
どうやら、俺は前にもそう言ったらしい。
『支度をする』と言って風呂場に向かおうとしたレイに、一緒に入ろうと声をかけたのは俺だ。
何となく、レイをまた風呂場で一人にさせたくなかった。
レイは、洗い終えた髪を器用にくるりと捻って自身の髪だけで束ねた。
「面白い事をするんだな」
俺の声に、レイは「そうか?」と不思議そうに答える。
髪の長い者なら、皆こういう事は出来るのだろうか?
記憶を辿るも、彼女がそんな事をしているところは見た事がない。
そんな事を考えながら見つめていると、レイは頬を染めて俺に背を向けた。
「こ、これからその……、下を洗うから。あんま見ねーでくれよ……」
「どうしてだ? 俺が入れるところじゃないか」
よく見ておかねば、上手くいくものもいかぬという物だ。観察する事は、全ての学びの基本だろう。
「俺が恥ずかしいからだよ!!」
叫ぶレイは真っ赤だ。
俺の視線で容易く色を変えるその肌が、どうにも愛おしい。
しかし、もう夜も更けているのだから、声量は抑えてもらわねばな。
「あまり大きな声を出すな、近所迷惑だ」
「うっ……」
レイが、その通りだという顔で肩をすくめる。
いくつになっても素直なところも、俺には好ましく映っていた。
レイは、俺が目を逸らす気がないのを理解すると、仕方なさそうに、背を丸めて、なるべく俺に見えないように支度を始める。
石鹸を手に取ったのは、滑りを良くするためだろうか。
しかし、完全に背を向けられ、体を丸められてしまっては……。
「おい、それでは見えんだろう」
びくりと肩を揺らしたレイが、絞るような声で聞き返す。
「……っ、み……、見たいのかよ……」
「ああ。お前を隠さず見せてほしい」
答えれば、レイは葛藤の末に、じわりとこちらへ向き直る。
恥ずかしさを必死で堪えて、耳まで赤いレイは、俺の視線を受けて、その肌までもほんのりと赤く染め始める。
上気し濡れた白い肌に、結い残された幾筋かの金髪が絡まり、青い瞳は潤んで恥ずかしそうに伏せられていた。
レイの細く長い指は、自身のそこへと第二関節ほどまで入り込んでいる。
羞恥に震えている癖に。それでも、俺の求めに応じようとするレイの健気な姿が、たまらない。
ぞくりと背を上る熱に、俺の下腹部に力が集まれば、それに応えるようにレイのそこも緩やかに立ち上がる。
「お前、俺に見られて感じてるのか?」
「……っ!」
レイは、何事か叫び返そうとしたが、近所迷惑だと言われた事を思い出したのか、それを飲み込んだ。かわりに、震えるようなか細い声で呟きを落とす。
「ル、ルスだって……立ってるじゃねぇか……」
「お前のそんな姿を見て、立たぬ方がおかしいだろう」
当然だと返せば、レイは小さく息を呑む。
その顔が、嬉しそうにふやける。
……なるほど、俺がお前に欲を持つのは、お前にとって喜ばしいことのようだな。
俺は、レイが俺のために用意してくれた風呂椅子を引き摺って、赤く染まっているレイへと距離を詰める。
「……レイ、早くお前を抱かせてくれ……」
耳元に顔を寄せて、囁くように求めれば、レイは潤んだ瞳で俺を見つめ返した。
俺は思わずその唇を奪う。
レイの薄く柔らかな唇は、この歳になってもまだ淡い色をしている。
俺とは大違いだなと思いながら、その唇を丹念に味わうと、余計にたまらなくなる。
「レイ……」
熱の篭る声で囁けば、レイが慌てて止めていた手を動かした。
「わ、分かったから、ちょっと待ってろよっ」
どうやら、中を洗い流す必要があるようで、レイは石鹸のついた指で自身の中を洗い、そこへ湯を注ぐ。
「……んっ……」
ぴくり、と小さくレイが腰を揺らす。
はぁ。と至近距離で吐かれた熱い息。
俺の背を熱が駆け昇る。
「レイ……もう我慢できそうにない」
「え……?」
俺の言葉に、レイは引き攣った。
レイの肩を抱き寄せると、その白い首筋に舌を這わせる。
「ちょ、ま……っ、ルス……っ」
戸惑う声さえもどこか可愛くて、俺は小さく緩む口元を誤魔化すようにレイの首筋を舐め上げて、柔らかそうな耳たぶを食む。
「ぅ、ぁ……っ」
「可愛い声だな……」
レイの耳の中で囁けば、しゃがんでいたレイがガクンと姿勢を崩した。
掴んだままの肩を支えて事なきを得るが、レイはぐるぐると目を回しかけている。
「も……勘弁してくれよぉ……」
真っ赤な顔で、なぜか半べそのレイを、俺は両腕に力を込めて抱き上げると、膝の上に向き合うように乗せた。
「ル、ルス!? 足は……っ」
「お前の体重くらい、大丈夫だ」
お前は相変わらず、俺の心配ばかりしているな。
この金髪の男が、俺を心配してばかりなのが、昔からくすぐったかった。
こういう関係になるまでは、レイは俺を心配する気持ちを隠そうとしていたが、それでも伝わるものはあった。
「お前は少し軽過ぎないか? もう少し筋肉をつけた方がいい」
俺が言えば、レイは苦笑して言った。
「ルスが特別ずっしりしてんだよ」
「……そうか?」
ごくり、とレイの喉が鳴って、その視線が俺の物に注がれているのに気付く。
「どうした?」
「い、いや……、やっぱ、ルスのデケェなと思って……」
「そうなのか?」
「ああ、平均サイズより……一回りどころじゃないだろ、これ……」
レイは俺の物から視線を逸らさず答える。
「お前の情報網は、一体どうなってるんだ……」
大風呂や便所で仲間の物を見る事があっても、それはこの状態ではないだろうし、そんな話をわざわざするだろうか?
いや、確かに学生の頃そんな話ばかりしているやつはいたが、クラス委員をしていた俺の周りにはいない人種だった。
レイはまだ、赤く染まった頬のまま、俺のそれに青い瞳を釘付けている。
もしかして……と、俺はレイの頬に顔を寄せて囁いてみる。
「欲しいのか?」
ビクッと、レイは大きく肩を揺らす。
カアッと元から赤かった頬をさらに染めて俯くその様子に、俺は、早く入れたくてたまらなくなる。
「……まだ、ダメなのか? 後はどうしたらいい?」
「あ……あとは、水が綺麗になるまですすげば……」
「分かった。俺がしよう」
「へ……?」
間抜けな声を漏らしたレイの腰をぐいと引き寄せれば、腕がレイの後ろへ回るようになる。
前では、お互いのものがふるふると揺れて触れ合った。
何だかおかしくて小さく苦笑した俺とは違って、レイはその小さな刺激にもびくりと腰を浮かす。
手の届く位置に落ちていた筒状の注湯器を拾って、俺はレイの後ろへと指を這わせた。
ひくり、と小さく震えたそこは、まだ石鹸でぬるついている。
俺はレイの入り口周りに残った石鹸を自身の指に移すと、そこへと指を差し入れた。
「は、っあ……」
グッとレイの体に一瞬力が入る。が、それを意図的に抜くためにか、レイは俺の肩口で細く長く息を吐いた。
「いい子だ……そのまま力を抜いておけよ」
中にはまだ湯が残っていて、差し入れたそこからぽたぽたと指を伝って流れる。
「ふ…………、ぅ……」
確かさっきはレイが二本の指で入り口を広げていたな。
だが、レイの指に比べると、俺の指は随分太い。
慎重にもう一本を潜り込ませると、レイは腕の中で震えた。
「……痛くないか?」
「ん……大丈、夫……」
レイのこの言葉を、俺は聞いたことがあったような気がする。
こんな風に、真っ赤に肌を染めたこの男を、俺はこんな風に肩に抱いた事があったような……。
「……っ、ぁ……っ」
レイが小さく震える。
この姿勢では、あまり奥まで入れられんな……。
ゆるゆると入口をほぐして、俺は注湯器をあてがう。
「湯を入れるぞ」
「ぅ……、ん……」
こくり、と肩口で金髪が頷く。
赤い頬を俺の首に擦り寄せて、力を抜こうと懸命な様がいじらしい。
その髪を撫でてやりたい気持ちを堪えつつ、俺はレイの内を二度、三度と洗った。
「もう良いようだな」
透明な水を眺めて呟けば、レイが小さく息を呑む。
期待してくれてるんだろうか。
だとしたら、俺も嬉しい。
「さて……、足がこうでなければ、お前を抱き抱えてベッドまで運ぶのだがな」
苦笑とともに呟けば、レイがハッと俺の膝から降りた。
そう慌てんでもいいだろうに。
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