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第22話◇

 ふ、とマネキンが着てた、白のカットソーに目が留まる。 「……先輩、それ似合いそう」 「ん? あ、これ? いーけど、ちょっと寒そう?」 「……じゃあこの黒いカーディガン合わせたら」 「んー、いーよ。下どうしよっかなあ……」  ズボンコーナーを見回して、ベージュのチノパンと、薄いブルーのジーンズと、差し出して。 「どっちかは?」 「んー。じゃあ、チノパンにしよっかなあ」  とりあえず下だけ試着して、スニーカー迄、一揃い決定。  会計を済ませて紙袋に入れてもらう。    白のニットを着たとか言ったら。  絶対、祥太郎に馬鹿笑いされる気がする。     つか。なんで明日、一緒に観光する事になってるかと言うと。 「仲直りって言うのか分かんねえけど、仲良くなる為にも旅行って、すげえ良くない?」   ……とか。すごく楽しそうに先輩が、言うから。 「めっちゃ仲良くなって、志樹の前に出てやろうぜ」  とか。悪戯っぽく笑いながら、オレを見つめるから。  ……断れなかった。  というか。そもそも、もう、オレの方に断る理由は無いし。  ただ、なんか。  ……オレの気持ちが妖しすぎて、あんまり、近づかない方が良い気がしていて、その点においてのみ、少し、迷うけど。  オレ。  ……男って、ありなのかな。  ――――……先輩以外の男には、これっぽっちも感じた事のない想いだけど。 なんか、やばくて困る。  あー、オレ、今日、この人と同じ部屋に泊まるのか。 「なあ、部屋で飲み直す?」 「そう、ですね」  ――――……酔わせて、眠らせてしまおう。  オレが酔えるなら、酔って寝ちまえば良いんだけど、なかなかそう出来ねえし。 先にぐっすり眠ってもらってしまおう。  そんな決意をしながら歩き、駅から10分で辿り着いた宿泊先は、見た目から雰囲気が良かった。  純和風な旅館で、入り口で靴を脱いで上がる。受付も仲居さんも、すごく対応が良かった。部屋で簡単に館内の説明を受け、仲居さんが出て行くと、急に静かになった。  2つ部屋あって、1部屋には大きなテーブルとテレビ等、隣の1部屋にはもう布団が敷いてあった。シンプルな和室で、木の温もりを感じて何だかすごく落ち着く。窓際に、小さいテーブルをはさんで、一人掛けのソファが2台置いてある。  雰囲気があまりに良くて。 「――――……」  なんか、緊張してきた……。  ……て、この緊張自体がおかしいとは思うのだけれど。  布団が目に入ると、何でだかドキッとする。  何で男2人なのに くっついて敷いてあるんだ。 「あ。そうだ。ちょっと電話」  先輩が部屋の電話を取って、こちらに背を向けて何か話してる隙に、布団の部屋に行き、さっと布団を離してみる。  どんなに離れさせても近いし、離れすぎてても、不自然……。適度な所でやめておいた。  ……やっぱり、別の部屋にしてもらえば良かった。  何でオレ、一緒の部屋なんて言ったんだ。バカか。マジで。  と思いながら。  ……むしろ、それを気にして、狼狽えてるオレがバカなんじゃないだろうかと思い当たり、ため息をついた。 「なー三上、さっき買った服とさ、今日着てたものさ、頼めば洗濯してくれるって。着れるようにして明日朝食の時に渡してくれるっていうからさ、頼んじゃおうと思うんだけど」 「洗濯?」 「オレ買った服そのまま着るの、なんかやなの。特にインナーとか無理で。なんかかゆい時あるし。お前のも頼んでくるから、タグとっちゃおう?」 「オレも普段は一回洗濯してからじゃないと着ませんけど我慢しようかと……。洗濯してくれるんですか?」 「うん。旅館の人が使うコインランドリーがあるんだって。別料金ていってたけど、そんなしないって言ってた」  そんな言葉を聞きながら、さっきの紙袋から服を出して、タグを外していると。先輩が、立ち上がって、テレビの隣の棚の扉を開けると。  急に、服を脱ぎ始めて、脱いだものをハンガーにかけながら、何のためらいもなく、インナーも脱ぎ捨てて、置いてあった浴衣に袖を通してる。  思わず見てしまって。  浴衣を羽織った先輩が、ベルトを外しだした所で、さっと視線を外した。  少しして完全に浴衣姿になった先輩が、ワイシャツとインナーをくるくる丸めながら近づいてきた。 「三上まだ? 遅い……」  オレの隣に、膝をついて座る。 「一緒にやる」  オレの服を手に取って、タグを外していく。  つか。  浴衣着て、隣にくんの、マジやめて欲しい。 「ん、これで全部? なあ、三上もワイシャツ洗ってもらっちゃうから脱いで」  もう、逆らう気力も無く、同じように全部脱いで、浴衣に袖を通すと、先輩が、空いた紙袋に2人分の服をつめてる。 「ちょっと、頼んでくる」 「オレも行きますか?」 「いいよ。すぐだから。あ、一応財布……」  財布も紙袋に入れて、いってきまーすと、消えて行った。 「――――…………」  思わず、その場で尻をついて座り込み。  そのまま、後ろにばたんと倒れて、大の字になった。 「――――……………」  落ち着け。  上司だ。先輩だ。兄貴の親友だ。  ――――……つか、そもそも、男だ。    

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