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第24話◇

 やっぱり、他の男とだったら、何のためらいも無く、一緒に入って満喫すると思う。断る不自然さが無理。突っ込まれたら耐えられない。仕方ない、一緒に入ろう。  心は決めたけれど、とりあえず先輩が体を洗い終わって、湯舟の中に入っててくれると良いなと思って、だいぶ遅く、風呂場に向かった。 「三上、超遅いー! なあ、悪い、水持ってきて? ゆっくり入りたい」 「持ってきますね」  ああ、良かった。もう温泉に浸かってた。  安心しながら、部屋に戻り、冷蔵庫を開ける。  ペットボトルの水を2本持って、風呂場に戻る。 「はい、先輩」 「ん、ありがと」  ペットボトルを渡しながら。  温泉、ちょっと濁ってて良かった……なんて思う、アホな自分。  ため息をつきながら、服を脱いで、中に入る。  体を洗って、シャワーを浴びた。  別にこっちが裸なのは構わないんだけど――――……。  はー。  湯舟、広くて良かった。  少し間を空けて、お湯につかる。  自分用のペットボトルを開けて、水を飲んでいると、先輩がくす、と笑った。 「なんかさー、あれやりたいよな」 「なんですか?」 「あれ……何て言うの? あの――――……お盆にさ、日本酒とさ」 「ああ、お湯に浮かべて、お酒飲むやつですか?」 「そうそう、それ」 「でもあれ、お風呂で酒飲むと事故が多いって、やめてるとこが多いって、前聞きましたよ?」 「……三上って、つまんねー事言うのな」  む、と、ふくれて、お湯に埋まってる。  ちょっと可愛い気がして、そんな事を思っている自分に苦笑しつつ、また水を飲んでいると。  ふ、と上を向いた先輩が、めっちゃキレイ、と笑った。 「月。綺麗だよ」  笑みを含んだ、楽しそうなそんな声に、何気なく、先輩の方を見て。 「――――……」  上向いてるから、やけに目立つ、白い首筋。    ドキ、と胸が弾んで。  ――――……や、ば。  ……マジで、ヤバい。  もう、今日、夕方からだけで、一体何回そう思ったか分からないけれど。 「三上? 見た?」 「あ、はい――――…… うん。月、綺麗、ですね」  先輩の声に、咄嗟に上を見て、何とか、答えたけれど。 「な?」  ふ、と笑って。  先輩が笑う。  ――――……何回も、ヤバいと思いながらここまで来たけど、今が、一番ヤバかった。  白い首筋が、あんまりキレイで。  触れたい、とか――――……。    「そういえば、三上って、彼女いるの?」 「……え? あ、彼女?」 「うん」 「……今は、居ないです」  居たら、こんなにヤバくなってない――――……か?  ……つか。  …………最近全然その気になんなくて。  久しぶりに合コン行って、一晩だけの関係は持っても、続ける気にもならず。 「ふうん? モテそうなのにね」  そんな事言いながら、先輩は空を見上げるのをやめて、くる、と振り返ると、膝立ちになって窓から下の庭園を見下ろしてる。  腰までしか湯船に浸かってねーし。  もう見ない見ない見ない。  頑なに視線を逸らし、ペットボトルの水をひたすら飲んでると。 「社内にもお前の事好きな子、何人か居るの知ってる?」 「……あー……何となくは分かりますけど。でも兄貴に、絶対ダメって言われてて」 「え??」 「社内の女、適当に食ったら殺すって」 「殺されちゃうの?」 「……そうみたいですね」  先輩は、ぷ、と笑って、大変だね、とオレを見てくる。  温泉でちょうどいい感じに頬が赤くて。  髪も濡れてて、普段と違う。  少し、幼く見える。  なんか、可愛い――――……って。  いやいや。  可愛くない。可愛くない。  男。  自分に言い聞かせるとともに、なんとか、会話に神経を戻そうと、頑張ってみる。  なんの会話中だっけ、今。  先輩何て言ってたっけ……。

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