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第80話◇女の子みたい?

 少しの間手を握られてたけど。その内明るくなって、手を離した。  男でも、この人の事が可愛いって思ってるから、  今更オレは気にしないけど。――――……先輩が嫌だろうし。  やっぱり、これが女の子だったら、手を離さなくてもいいのにとは思ってしまう。ずっと手、繫いでいたかったなあ。  京都に戻って、雰囲気の良い居酒屋に入った。  個室に入って、乾杯。 「先輩、お酒、少しにしてくれますか?」 「ん?」 「全部、ちゃんと覚えてて、ほしいので」  言うと、うん、と頷く先輩。  ……意味分かってるかな。 「――――……ていうか、昨日のも、全部、覚えてるよ」  あ。分かってるかな。  昨日の事を思い出しているのか、少し恥ずかしそうに、顔を逸らす先輩に、くす、と笑ってしまう。 「記憶なくなった事、無いから大丈夫」  言いながら、ぱく、と食事を口にしてる。 「……三上ってさ」 「はい」 「昨日、酔ってた、よね?」  何が聞きたいんだろ。  ――――……オレが酔ってたからあんな事したってこと? 「あのね、先輩」 「うん」 「オレ、めちゃくちゃ、酒に強いんですよ」 「え、そうなの?」 「昨日オレ、酔ってるように見えました?」 「……見えないけど、結構普通に飲んでたし、少しは酔ってるかなって」 「オレ、強くて。あれくらいじゃ全然酔わないんですよ。――――……昨日の事は、全部覚えてますよ」 「――――……あ、そう。なんだ」  それきり黙る先輩。  オレが酔ってて、昨日の事は酔ったせいとか思ってるのかな?  ――――……うーん。  いまいち、真意がつかめない。 「……今のそれ、何で聞いたんですか?」  先輩の答えが聞きたくて、そう問うたら。  先輩はじっとオレを見つめて、ん、と苦笑い。 「なんか――――……」 「はい」 「…………ちょっと、女の子みたいな事言ってもいい?」 「……どうぞ」  ……女の子みたいなこと?  なにそれ。可愛いこと言うっていう宣言?  つか、そんな宣言しなくても、今日1日、可愛い発言めっちゃくちゃ繰り返してるんだけど、分かってねーのかな。  ていうか、宣言するって事は、先輩が気づく程に、よっぽど可愛いこと言うってこと??  ――――……うわ、なんかオレ、撃ち抜かれそうで嫌なんだけど。  心構えを持つために、一瞬で色々予想してみる。  オレが酔ってた方が良かった? 恥ずかしいから、とか?  よく覚えてないって、言った方が良かった? やっぱり恥ずかしいから?とか?  それとも、酔ったせいにしたかった? とか。あ、でもそれは女の子っぽくはないか。 ……なんだ??  ポーカーフェイスのまま。  でも心ん中はめちゃくちゃ色々予想しながら、先輩の答えを待っていると。 「……酔ってなくて、良かった」 「――――……」 「結構飲んでた気がするし、酔ってたかなあって思ってて」  ……ああ。酔ってなくて、良かったんだ。  ……じゃあ酔ったせいにしたいとかじゃないか。  ……それは何で?  先輩の次の言葉を待って、先輩を見ていると。   「だって、初めてした時の事、オレしか覚えてないとか、なんか悲しいなーと思ったから。 良かった。酔ってなくて」  初めてした時のこと。  先輩にとって。  昨日の事って。 オレと2人で、覚えていたい事、なんだ。 「……それって、女の子みたいですか?」 「え。あ、だってさ、なんか、忘れちゃやだって言ってるみたいで。別にそんなこと、なかった?」  ……言ってるけどな。  完全に。  みたい、じゃなくて。  ――――……頼んだ食べ物もまだ少ししか来てないし、まだ一杯めに口付けたとこだけど。  もう何もいらないから、連れて帰りたい。    ほくほく美味しそうに食べてる先輩に、まさかそんな事は、  言えないけど。  すっげーもどかしい。

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