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第79話◇指先

 誰にも見られず、トイレからうまく脱出して。  パーク内を歩き始める。  隣を、先輩が歩いてる。  ――――……キスして、めちゃくちゃ照れてる先輩と出てきて。  歩きながら。まだ、全然話してはいない。  でもなんか。  話さなくてもいいかなと、思ってて。  なんだか、さっきの「好き」って言葉がずっと、ふわふわ浮いてて。  敢えて何も言わなくてもいいような。  先輩も特に何も言ってこないし。  歩いてる先で、わあっと歓声が上がった。ふ、と先輩が足を止めたので一緒に止まる。「あそこ見ていい?」と先輩がオレを見上げるので、「はい」と頷いた。  派手に着飾った何人かが、わりと狭い空間で、ダンスを披露していた。 「すごいなあ……」  先輩は一言漏らして、そのままじっと見入ってる。  ものすごい激しい動きで、それが見事に揃っているので、あちこちで拍手や歓声が上がる。  10分位で出し物が終わった。集まっていた人達がバラバラと散りだす。 「すごかったなー」  楽しそうに笑う先輩に、自然とこっちまで笑みが零れる。 「そうですね」  答えると、ふ、と先輩がオレを見上げた。 「――――……」  ん? と、見下ろすと、数秒見つめあってしまった。 「――――……なんか……すごい恥ずかしいんだけど」  先輩が、ふ、と視線を外して、口元を隠す。  ――――……ほんとに、もう、先輩。  可愛くて、反則すぎるんだよな……。何なんだ。ほんとに。 「まっすぐお前、見れないかも」  とか言って、何だかオレの少し斜め後ろに立って、背中を押してくる。 「……ちょっとこのまま歩いてくれる?」  ――――……何だそれ。  背に、先輩の手が触れたまま。少し進む。  触れてる手が、なんか――――……くすぐったいし。    大分暗くなってきてて。 ここのエリアは、世界観からなのか、わりと暗めの照明で、イルミネーションを頼りに歩いてる感じ。  少し振り向いて。オレの背に触れてた先輩の手首を、掴んだ。 「え」  そのまま、手首を掴んだまま歩き出す。  ほんとは手を繋いでしまいたいけど、それは嫌がりそうなので。 「三上……」  先輩がちょっと困ったみたいな声出してるけど。  結局振り払われる事は無くて。  半分、手を繋いでるみたいな感じで、人込みを一緒に歩く。  結構混んでるから、すれ違うオレ達の手が触れてようが、誰も気にしない。 「――――……そろそろ、出ますか?」 「――――……」 「京都に戻って、夕飯食べて――――……部屋、戻りますか?」  ちゃんと意味を込めて。  先輩の手首を少し強く握って、そう言ったら。  先輩はするりと、オレの手から、手首を抜いて離れた。  抜かれたかな、と思った瞬間。  先輩が手に触れてきた。 「……人に見られない間だけ、な?」  しっかり繋ぐ訳じゃなくて、ちょっと触ってしまってるだけみたいな、繫ぎ方ではあったけれど。 「……京都、戻ろ」  こっちは見ないけど。  きゅと、指の先っちょを握られる。  手を、掴んだのはオレが最初だけど。  それを外して、手に触れて、くるとか。  何なの。この人。  ……もう、なんか。  ――――……めちゃくちゃ、可愛い、しか、言葉、出てこねーんだけど。

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